天恵物語
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第九章 09

学院の一角に、初代学院長エルシオンは眠っていた。


「近くで見ると更に立派ですね……」


旧校舎の入り口があると言われても納得出来る。ただ、その入り口がどこにあるのかが分からないのだが。


「入り口になってるのは、ちょうどこの辺りです」


レッセの指差す先には、ちょうど人が一人入れるくらいの窪みが出来ていた。しかし、石で頑丈に閉ざされていて、中に本当に入れるのか首を傾げたくなる。


「旧校舎は立ち入り禁止ですから、生徒が入らないように先生方しか入り口の開け方を知らないんですよ」


「そうなんですか……」


少し、開くところを見てみたいという好奇心があったりしたのだが、開かないものは仕方ない。


「せっかくですから、何かお供え物があれば持って来たかったですね……」


墓の前まで来て気付いたのだが、生憎と手持ちに供えられそうなモノはない。


「そうてすね、今度何か持ってきてみましょうか……、……あぁ!!」


「ど、どうかしましたかレッセさん」


隣に並ぶレッセがいきなり大声を出したので、墓に何事かあったのかと思ったが、特にコレといった異常はなさそうだ。突然どうしたのだろうと隣を見ていると、レッセもリタを見返した。一体、どうしたのだろうか。


「……リタさん、さっき金色の果実を探していると言ってましたよね?」


リタが探偵ではないことがバレたのは、つい先程のことである。ついでに、実は旅人で金色の果実を探していることも、ついポロッと喋ってしまっていた。


「あ、はい。……あれ、まさか……」


もしかして、話の流れ的にこれは。


「リタさんの探しているものなのかは分からないんですけど……ついこの間、それに似たようなものが供えられていたような気がして……」


「ほ、本当ですか?!」


自信なさげではあるが多分、とレッセは頷いた。初代校長の墓に供えてあったという女神の果実。しかし、持ち去られてしまったのか今はどこにもない。
誰が持ってきたのかは知らないが、見つけた果実を誰かが墓に供え、それをレッセが見かけ、そしてまた誰かが持って行ってしまった、ということだろう。見つけた本人が持ち去ったのかもしれないし、他の生徒や教師かもしれない。とりあえず、学校の関係者である可能性は大きい。
今は誰が果実を持っているのだろう。人間ではない可能性だってある。


(もしかしたら初代の学院長、とか……)


墓に供えてあったから、というのは少々短絡的かもしれないが、可能性はなくもない。
とにかくここに女神の果実があったことは確からしい。もしかしたら、事件に関わっているのかもしれない。女神の果実の力で、何か事件が起こることは今まで度々あった。……経験から言うなら、絶対何らかの形で関わっている、と思う。


「誰が供えていたかまでは分からないですよ、ね」


「すみません、さすがにそこまでは……」


レッセは供えてあったものを見ただけで、誰が置いていったのかは分からない。


「あ、でも……そういえば果実が供えられてたのと事件が起こったのって、ほぼ同時ですね」


レッセは最後に、さらっと嫌な予感の増大する一言を付け足した。もしかして、とは思っていたけれど……やはりそういうことなのだろうか。


(この事件も、女神の果実が関係してる……とすると、)


この学院で、事件と女神の果実、二つのことを生徒に聞き込むことになりそうだ。
……探偵を引き受けておいて、良かったのかもしれない。たとえ嘘でも。
良かったと思えたのはここに来て初めてのことだ……と、リタはしみじみと感じた。
本題はここからで、まだまだ解決にはほど遠いことばかりだけれど。どうやら、事件の捜査と女神の果実探しは、ほぼ同時平行で行うことになりそうだ。










(果実の行方)
09(終)




―――――
授業はまだまだ続いております。


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