天恵物語
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第九章 04-1

「リタ……その格好は?」


学院長によって、なぜか旅人から一転、探偵となったリタ達。とりあえずリタと学院長が話してくることになり、アルティナとカレンは別の応接間で待機していた。その間に、誰かは分からないが教師と思われる若い男性がやって来て、お茶を用意しながら「すみませんウチの学院長が」とか母親みたいなことを言っていた。学院長が何かやらかしたことを空気で察知したのか、はたまた学院長が強引に事を進めるのは日常茶飯事なのか……そんなことを考えながら、リタが戻って来るのを待っていた二人だったのだが……。
学院長との会話の後、学院長からの提案により手こずりながら制服に着替えたリタである。ちなみに、手付金については丁重にお断りした。自分達が依頼されたわけでもなし、あの場で頂くわけにはいかない。事件が無事解決できたら、と言ってとりあえず受け取らずにおいたのであった。……つまり問題の引き延ばしである。
そんな経緯もあって、学院長との話が終わって戻ったリタの予想外の格好に、他二人は一瞬呆気に取られた。


「お前、いつからここの生徒になったんだ」


「えぇっと……ついさっき?」


エルシオン制服を着ている本人もなぜか疑問形で答える。


「でも、とっても似合っていますわよリタ! 本当にこの学院の生徒さんみたいですわ!」


「あ、ありがとう……?」


赤いブレザーに緑のネクタイ、そして黒のスカート。それらを着込んだリタはカレンの言う通り完全にエルシオン学院の生徒にしか見えない。
そんなリタを見てはしゃぐカレンだったが、しかしやはり疑問は残る。


「ですが……どうして生徒さんのフリをなさってますの?」


「……さしずめ潜入捜査ってところか?」


「う、ん……そんな感じかな」


アルティナの言葉にこくりと頷く。学院長は、リタ達を新入生として学院に放り込むつもりらしい。その方が捜査をしやすいだろうという学院側の配慮……というか学院長の策略だった。
新入生として入れば、学校のことなど事前に知っていなくても良いわけで、それに探偵よりも生徒同士の方がいろいろと話してくれることが多いだろう、とのこと。でも確かに、エルシオンの生徒として潜入するのだったら新入生になっておく方が危険が少なそうだった。


「そういうことでしたのね。……、あら? ということは、まさか私達も……?!」


納得しかけたカレンの顔が、嫌な予感を感じたのか少し歪んだ。
大抵、嫌な予感というのは的中することが多く、今回もその例外ではない。


「そのまさかで……アルとカレンの分もあったりします」


そう言って、リタが机に置いたのはキッチリと畳まれた男女一組ずつのエルシオン制服だった。
……学院長の準備の良さに、二人して押し黙る。


「え……というか私、新入生に見えます?」


「それを言うなら俺だって違和感ありまくりだろ」


学生には見えるかもしれないが、新入生は無理があるのではないかと思う。


「あ、それなら転入生ってことにしておけば……って学院長が言ってたんだけど」


渋い顔の二人にリタが提案する。といっても学院長の受け売りだ。
……何だろう。トントン拍子に話が進む、この感覚は。つい最近もどこかで経験した覚えがある。そう、アレはちょうどグビアナの事件が解決した直後のことだ。何が、とか、誰が、とかはあえて言わないけれど――とても、似ている。


「まさかお父様、何か学院長に吹き込んだのでは……」


「…………」


沈黙。
というのも、イズミだったら三人を探偵として送り込むくらいはしそうだなと思ったからで。まさか、と言い切れないのはブランス家男児における共通の特徴らしかった。
仕方なく新品の制服に二人が袖を通したのは、そのすぐ後のことである。


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