天恵物語
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第二章 03

店や家が軒を並べる、セントシュタイン城下町。


「ここが、セントシュタイン……!」


初めて見る城下町に目を輝かせる少女がいた。


「やっとついた感じ? やっぱ王国は広いね〜」


サンディはリタの周りをひらひらと飛び回った。


「あ、そういやリッカとかいう子がここで宿持つんだったっけ? 知らない仲じゃないんだし、ちょっと見て行こーよ……あれ、リタちょっと聞いてる?!」


サンディに怒鳴られ、慌てて耳を手で覆った。耳元で騒いでくれたおかげで、頭の中がグラグラする……。


「ごめんごめんボーっとしてて……でも、サンディは普通の人には見えないんでしょ? 普通に喋ってたらわたしが変な人扱いされるような……」


「気付かれない程度に小声でうんとかすんとか言えばいいじゃないのヨ!」


言われた通り、リタは小声で返した。


「分かったよ! えぇっと、リッカの宿屋は……」


そんなリタに、サンディはやれやれと溜息をついた。


「アンタねー、そんなボサッとしてるといつか物盗られるよ?」


「盗られないもん……。あ、アレかな?」


宿らしき建物を見つけた。ちょうどリッカとルイーダがその建物に入って行くところだ。


「あそこだ!」


宿へ向かおうとした、その時……。


「きゃああーーっ!! 引ったくりよ!!」


どこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。……どうやら物取りが発生したらしい。


「あーぁ、言ってる傍からコレだよ。都会ってこういうトコはイヤだよネー……って、リタ?!」


ぶつくさと愚痴るサンディをよそに、リタは鞘が付いたままの剣を構えた。


「ちょっとアンタ何するつもり?! ……まさか、」


そのまさかだった。


「引ったくり捕まえる」


簡潔にかつキッパリそう言うと、リタはこちらに向かってくる、引ったくりらしき男に照準を合わせた。そして、その前へと踊り出る。


「な……っ?!」


いきなり現れた少女に戸惑った男だったが、そんなことはお構いなしとばかりにリタは高く跳躍した。

剣を握って大きく振りかぶると、男の頭上に一撃を加えた。


「ええーい」


ゆるい声とは対照的に、ガツンという鈍い音がした。鞘の部分が直撃した男はそのまま地面へと倒れ伏した。
リタは無事地面へと着地すると、男の傍らへと歩み寄る。


「人のものは盗っちゃダメです」


完全に伸びてしまった男を覗き込み呟くと、男が盗んだバッグを拾いあげた。
いかにも高そうなバッグを持ち主の手元へ返す。被害者は、全身をきらびやかに着飾った貴婦人だった。


「ありがとうございます……!!」


貴婦人が何度もリタにお礼を言っていると、周りからも称賛の声が上がった。
その後、やって来た兵士に盗みを働いた男を引き渡し、兵士にも感謝されたリタだった。
兵士達が去った後、サンディは思いっ切りリタをド突いた。


「うわわっ……」


「やったじゃんリタ! 一瞬どうなるか超焦ったけどさ、ちゃんと人助け出来たし結果オーライ的な? この調子でドンドン人助けしてくわヨー!!」


「うん、任せてよ! じゃ……事件も一段落したことだし、リッカの宿屋に行こっか」


そうしてリタ達は、意気揚々とリッカの宿屋へと向かったのだった。















(リッカの新しい宿屋へ!)
03(終)




―――――


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