第八章 09
ジーラとはやはり、先程ぶつかった侍女のことだった。
女王のトカゲ探しの協力を申し出るとジーラは感謝してトカゲの特徴を教えてくれた。どうやら大きな音が苦手らしく、拍手でもすれば驚いて出てくるのではないか、とのことだった。
「物音に敏感なトカゲですのねぇ……」
意外にも繊細な特徴を持つトカゲだった。ジーラは引き続き同じ場所を探すと言っていたので、三人は城の散策も兼ねてトカゲのいそうな場所を探して歩き回る。……しかし。
「……トカゲがいそうなところって、どこだろう?」
「日陰とか物陰とかじゃないか……多分」
「多分……?」
「トカゲとか、そんなイメージだろ」
トカゲの生態など気にもしてこなかったせいか、アルティナのトカゲに対する印象は結構適当だった。
そしてそれは……カレンも同様である。
「そういえばトカゲのことってあんまり知りませんわ。身の危険を感じるとしっぽが取れることくらいしか……」
「しっぽ取れるの?!」
当たり前のように言われたが、リタは軽くショックを受けた。
「ええ、ですから捕まえる時はしっぽを掴まないよう注意が必要ですわね」
トカゲのしっぽは絶対掴まない。そう心に留めたリタであった。
「面倒だな……この際、取れても別に良くないか」
どこにいるかも分からず、いそうな場所すら見当のつかないアルティナは投げやりに植え込みを覗いた。こんなところにいるわけないか、と溜め息をつく。アルティナの言葉が聞き捨てならなかったらしくカレンが噛みつく。
「ちょっとやめてくださる?! しっぽは切れても少しの間動きますのよ、そんなの怖くて嫌ですわ!!」
「う、動くんだ……。でも、しっぽ取れちゃうよりその後の女王様の方が怖いような……」
へそ曲げて面会してくれなくなってしまいそうだ。それか果実を譲ってくれない、とか。譲ってくれるかは未だ謎だが、なるべく女王の機嫌を損ねるようなことは避けたい。
しかし、女王のペットに対してなかなかに適当すぎるアルティナである。
「大丈夫じゃないか? どうせしっぽなんかそのうち生えてくるんだろ」
「生えてくるの?!」
まぁ確かに生えてくると言われているけども。危険を察知して尾が取れるのはトカゲだけではない。
トカゲの存在からして曖昧なリタは、ただ驚くばかりだった。とりあえず金色の小動物を探せば良いのだろうというくらいの認識だったのだが、それではダメなのだろうか。
分からないので、とりあえず暗くて狭い場所をひたすら探している。拍手してみたり壁を叩いてみたりするが、女王のトカゲが出てくる気配は全くない。
名前を呼んでみては手を叩き、影になっているところを覗きこむ。それを繰り返しながらゆっくりと廊下を進むというまどろっこしい作業。
「こんなたくさんの人が探してるのに、なかなか見つからないものですのね」
トカゲを探す人はあちこちにいる。この人数なら城内くまなく探せるのではないかと思うが、相手は小動物。そう簡単にはいかないのかもしれない。
「探していないとなると……外に逃げ出したとか?」
みんな城の中を捜索しているけれど。
「だとすると、ますます探すのが難しくなるのでは……」
城の中ならともかく、外となると規模が大きすぎて小さなトカゲを見つけ出すのはかなり困難だと思われる。
「でも、逃げ出してから時間はそんなに経ってないはずだし……もしかしたら城の近くにいるかも」
「城の近く……そうですわね、トカゲは短時間で長い距離を移動したりはしませんもの」
もう少し大きい動物だったらどうかは分からないが、今探しているのは小さなトカゲだ。遠くてもせいぜい城の周辺くらいにいるのではないか……と思いたい。
「中もあらかた回り終えているだろうし、一回外に出てみるか」
アルティナも納得したところで、城の周辺まで探す範囲を広げることにした三人は、城の出入り口へと足を進めたのであった。
(アノンちゃんを探しに)09(終)
―――――
トカゲのこととかよく分からないですが……しっぽ切って逃げるという捨て身技は自切って言うらしい。
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