天恵物語
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番外編 お正月のデート大作戦?!3

正月のセントシュタインは、街に入ればお祭り騒ぎである。商店街はもちろん、屋台なども立ち並び、活気に満ち溢れている。お祭りを傍から見ることはあっても、祭りを見て回る機会がほとんどなかった天使であったリタ。その目は誰が見ても分かるくらい輝いていた。


「……すごい、」


「正月だしな」


セントシュタインに来てから毎年見ていた光景であったので、これといって感慨は浮かばなかったアルティナであったが、リタにとっては違うだろう。


「わー、お店がたくさん……というか、食べ物がたくさん……?」


「屋台はだいたいそういうもんだろ」


中にはアトラクション的なものもあったりするが、見る限りは食べ物の店が多く見られる。その一軒一軒を見逃さないように、しきりに辺りを見渡す。何を買うでもなく、こうして見ているだけでも楽しめた。


「そんなに珍しいか?」


「うん、私のお師匠はウォルロ村の守護天使だったから……こういう、大きい街のお祭りを近くで見たことがなかったんだよね」


村の祭りは何度か見たことがあったが、やはり村と街では規模が違う。人が多いと、こんなにも違うものだろうか。村のささやかな祭りも好きだけれど、街の盛大な祭りも、にぎやかで楽しいと思う。


「……去年来れば良かったな」


リタのはしゃぐ様子を見て、アルティナがぽつりと呟く。さて、去年はどうしていたのだか……確か、日の出を見たかと思えばすぐに旅へ出ていたような気が。


「そっか、去年はすぐに女神の果実探しに戻っちゃったんだっけ」


脇目もふらず再び冒険に出てしまった結果、こんな素敵イベントを見逃したと、そういうわけである。


「うーん、たまには気分転換も必要なのかも。あ、そういえばアル、もう体の方は平気なの?」


「……それ、皆に言われたんだが」


リッカにも、先程言われたばかりだった。その前はロクサーヌに言われ、その前はルイーダに言われ、金庫番のレナにさえ言われた……最後は、言い方がややつっけんどんではあったが。すっかり風邪は治ったというのに、気持ちはありがたいけれども、さすがにげんなりしてしまう。すぐにその光景を想像出来てしまうことに、リタは苦笑した。


「みんな、アルのこと心配してくれてるんだよ」


「そうか? ルイーダは俺のことなんかほとんど便利屋扱いだぞ」


主な仕事は、屋根の修理や買い出し、荷物運び、などなど。リタと冒険に出る前は、それこそ宿屋の一員なのでは錯覚しかけたくらいである。というか、宿屋の客にはよく勘違いされていた。
今は宿屋にリッカを迎え、リタもいるので、以前ほどの仕事量ではなくなった。力仕事はよく頼まれているが。
そう言うと、リタは「想像できちゃうなー」と、笑っていた。きっと、主にルイーダから仕事を押し付け……もとい頼まれたに違いないのだ。


「でも……なんだか良いね、そういうの」


そう呟いたリタは笑顔だったが、今さっきのものとは少し違う感じがした。目を伏せ、どこか別の場所に思いを馳せているようだった。


「……リタ?」


「あっ、あれ何だろ? 面白そう……ちょっと行ってみようよ!」


「おい?!」


再びお祭り騒ぎに目を奪われたリタに、アルティナは人混みの中に消えそうになる後ろ姿を追いかけた。
先程覚えかけた違和感は、リタに振り回されたことですっかり忘れてしまっていた。


続く


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