第七章 12
「さっきまでお嬢さん、ここにいたんだけど……ああ〜どこに行っちまったんだ!」
アジトにすっ飛んで戻ってきた誘拐犯達は、すぐにマキナの捜索を始めた。アジトには他に人がいないことから、どうやら誘拐犯は二人組だということが分かった。
そして、リタ達の目の前にはもぬけの殻になった牢屋がある。しかも、一部の鉄格子がねじ曲がっており、そこから脱出した跡があった。……よほどの怪力でなければこんな頑丈な鉄の棒を曲げることは不可能だ。あのお嬢様にそんな力が備わっているとは思わないだろう。というか、普通あり得ない。
しかしそれが女神の果実を食べた人形となると、話が変わってくる。
人質を逃がす誘拐犯なんて聞いたことない、と憤っていたカレンも、この現場を見て意見を変えた。
「盲点でしたわ、あの子があんなに力持ちだとは思いませんでした……」
「とにかく、マウリ……マキナさんを探さないと」
おっと、と口をふさぎ慌てて“マキナ”と言い直す。
一瞬ひやりとしたが、誘拐犯達は“マキナ”捜しに必死で、リタの言い直しには気にも止めない。心の中でほっと一息つく。それはアルティナもカレンも一緒だった。次からは気を付けなくては。
とりあえず、誘拐犯がいる前では“マキナ”を通しておいた方が良いだろう。実は人形だなんて言ったらどうなることやら。
「くっそ〜全然見当たらねぇ。この洞窟の奥にはとてつもなくヤバイ魔物が出るってウワサだってのによ……」
あちこちを探し回る誘拐犯の言葉を聞くと、違和感を感じたリタはカレンに確認を入れた。
「ウワサっていうか、真実なんでしょ?」
「ええ、確実にいますわよ。しっかり目撃証言もありますから」
ふと誘拐犯を見れば、こちらを見て完全に動きを止めていた。
「……た、ただのウワサだろ……? 人を喰うクモの化け物がいるだとか」
「……非常に残念ですけれど、」
実在しますわよ。
知らなかったわけではない。けれどやはりというか、単なるウワサとしか思ってなかったようである。
「な、なんてこった……」
「あ、アニキ〜っ」
「お嬢さんがもしあっちの道に行ってたら……やばい、お嬢さんが大グモに……!!」
「あっちの道?」
「あっちが洞窟の奥に繋がってんだ。ウワサもあることだし、オレ達は行ったこともないけどよ」
どうやら、誘拐犯達が来るより前に洞窟に入った先人が中を掘って奥へ進んだらしい。確かに奥へと繋がる道が続いていた。
「そういうことは先に言ってくださいませ!」
「いやっ、でもお嬢さんがあっちへ行くはずはないんだ!」
断言する誘拐犯。訝しげに首を傾げたカレンに、誘拐犯は誇らしげに胸を張って言った。
「これでもかってほど、たくさんの立て看板を立てておいたからな! あれを読めばお嬢さんだって行こうとは思わないだろ」
「…………」
その確証はいずこに。
自信たっぷりのこの表情。誘拐犯達の抜けっぷりは、もはや閉口モノであった。三人とも黙りこむ。この二人組には手に終えないナニかがある。
その場には、「さすがだぜ、アニキ!」という子分の言葉だけが響いていた。
(誘拐からの失踪)12(終)
―――――
いよいよマウリヤ救出へ!
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