第七章 09-1
「マキナさんが……誘拐?!」
リタ達がカレンから事情を聞いた頃には、その事実は町中に知れ渡っていた。
「どうやら、お兄様達がマキナさんを訪ねた時にはすでに……」
兄達の話によると、こうだ。
リヒトとカイリは、ひとまずマキナ宅を訪れた。屋敷に上がらせてもらい、マキナの部屋をノックしたが応答はなし。何を言ってもうんともすんとも返ってこないので、打つ手なしとカイリはカラクリ職人を呼びに行った。いつもカラクリ職人によってマキナの機嫌は直っていたので、今回も手助けしてもらおうというわけである。
しかし、その間待っていたリヒトが部屋の鍵が空いていることに気付く。開けてみれば、そこはもぬけの殻であった、と。
よくよく見てみれば、テーブルの上には手紙のようなものが置いてあり。
そしてようやく事実を悟った。
と、まぁそういうことであった。
「まさか部屋の鍵が開いてるだなんて思わなくてね。ごめんね、もっと早く気付ければ良かったんだけど……」
「過ぎたことですし仕方ないですわ。それより、手紙には何て書いてありましたの?」
「えーっと、確か……」
手紙の内容は至って単純。
娘は預かった。返してほしくばカネを北の洞窟まで持ってこい。
とのことである。
「北の洞窟……川の向こう岸にある洞窟のことかしら」
「たぶん、そうだろうね」
そこにカネを持ってこい……と。
「ま、カネは何とか用意出来るだろ。父さんに相談してみるさ」
カイリはそこまで言って、「ただ、」と肩をすくめた。
「誰が行くかっつー問題だな」
「……それもあるだろうが、問題はもう一つある」
そこまで黙って聞いていたアルティナが口を挟んだ。
「アル?」
「問題……何かあったかな?」
「もったいぶらないで早く言ってくださいませアルティナ」
視線がアルティナに集中する。
みんな、単純なことを見落としていた。
「カネって……一体いくら持って行くつもりだお前ら」
…………あっ。
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