天恵物語
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第七章 01-2

「そうだ、アルの剣壊れちゃったよね?」


下山途中、ふと思い出したようにリタが尋ねた。その通りなのでアルティナが頷きを返す。なので今、全くの丸腰……というわけではないが、直ちに剣を調達する必要があった。


「どうしよう、やっぱり一旦カラコタ橋に戻った方がいいかな……」


うーん、と考え込むリタを「いや、」とアルティナが制した。


「これから行くサンマロウでも適当に見繕えるだろう。戻らなくていい」


サンマロウ、と聞いてピクリと反応したカレンであったが、前で会話をしている二人にその動揺を気付かれることはなかった。


「えー、戻ればまたデュリオさんに会えるかもしれないよ?」


「……別に会いたくない」


ふい、とそっぽを向くアルティナに「本当に?」と少しからかい口調で笑うリタ。
相変わらず二人の会話は続行され、それをカレンはただ聞き流しているだけだ。上の空、とも言える。


「カレンー? 何かボーッとしてるけど、どうしちゃったワケ?」


「あら、サンディ」


妖精や幽霊など、そういったモノが見えるようになってから短期間ではあるものの、すっかりサンディと打ち解けたカレンである。ギャルな見た目をしていたことに最初は不安を抱いたが、意外なことに話が合うらしいと分かり、特に先程なんかは――リタとアルティナのことでかなり話が盛り上がった。


「いえ…… リタ、すっかり元通りだと思いまして」


登山してる間は挙動不審の連続だったのに。今はそんな影すらなく、今まで通りのリタに戻っていた。


「あーそれは……アタシのせいも無くはないかもしんないとゆーか何と言うかー……」


ゴニョゴニョと言葉を濁す何かがあったらしい。とても気になったけれど、サンディは明後日の方向を向いている。とても気になった。


「サンディ?」


「あーっと、それよりサンマロウ! もしかしなくてもカレンってサンマロウ出身でしょ。何かあんまり嬉そーじゃないケド……」


どこでそれを、と思ったが、そういえばカラコタでデュリオに言い当てられたことを思い出した。この調子では、リタにもバレていると考えて良いだろう。そして多分、アルティナにも。


「当たり前ですわ。あそこには私が僧侶の旅に出ることになった発端の人物がいらっしゃるんですから」


「え、それってもしかしてサ……」


いわゆる、出家。


「ええ。私、結婚が嫌で家を飛び出しましたの」


「えっ、そうなの?!」


「き、聞いてましたのリタ?!」


……いつの間にかリタとアルティナも聞いていたらしい。二人とも目を丸くしてカレンを見つめている。リタはともかく、アルティナのそんな顔を見るのは初めてで、なんだか感動を覚えた。そんな顔も出来ましたのね、とかなり失礼な感想ではあったが。


「……ずっと黙ってて申し訳ありませんでした。私、サンマロウでも名門の貴族の娘でしたの……元はですけど」


確かに、お嬢様だろうとは思っていた。リタには貴族とか王族とか良く分からないけれど、きっとフィオーネ姫と同じような生活をしているのだろうと……。


「サンマロウの貴族で名門と来たか。下手すればセントシュタインの王族よりもきらびやかな生活送ってるって聞いたな」


どうやら、王族の上を行った生活らしい。


「……元々、そういう街ですわ」


ファッション、食べ物、芸術――何でも流行の最先端を行く華の街・サンマロウ。もちろんその名の通り花卉栽培も盛んである。年中温暖な気候で住みやすく、観光客も多い。まさに華の街である。
海に隣接しており、造船も昔はしていたらしいが、今は衰退の一方を辿る、などとも聞いたことがある。それというのも、とある豪商が夫婦揃って亡くなってしまったせいらしい。
カレンにより一連の説明を受けたリタは最後の説明に反応を示した。


「船かぁ……。デュリオさんも言ってたけど、あると便利だよね」


世界を旅するなら、あった方がいい。


「……そう、ですわね。もしかしたら……」


「カレン?」


「サンマロウでは、もう船を造っていませんが……一隻だけ残ってる可能性がありますわ。長く使われてないらしいので、もしかしたら譲っていただけるかも……」


その船というのが、亡くなった夫婦が所有していたモノである。その夫婦は豪商ではあったものの、なかなか親切な人達であった。娘が一人いたはずだが、まだサンマロウにいるだろうか。


「船っつーのは、譲っていただけるようなもんなのか?」


アルティナの発言が皮肉っぽく聞こえたのは、ただカレンの性格がひねくれてるせいなのか。それともわざとなのか。分からないけれど、これだけは言える。


「貴族の金銭感覚をナメてはいけませんわよ」


貴族全般がそう、というわけではないが、とにかく貴族は金を使う。湯水のごとく使う。例外もいないわけではないが、サンマロウはそんな典型的な貴族が多い。
だから、川の上流にあるカラコタ橋の盗賊達――特に義賊なんかに狙われたりするのだ。


「まぁ、まだ船があるかなんて保証はありませんし、早速サンマロウを目指しましょう」


「お前はそれで大丈夫なのか?」


え、と言葉に詰まった。まさか、アルティナにそんなこと言われるとは思わなかった。リタも心配そうな顔でカレンを見ている。


「カレン、行きたくないなら無理して行かなくてもいいんだよ? 私は辛いことを強制したくないし、サンマロウ行かないで待っててもらっても……」


サンマロウに行きたくないかと言われれば、行きたくないかもしれない。だが、しかし。


「ありがとうリタ、私は平気ですわ。……別に辛いわけではありませんのよ。ただ……」


かなりムカつくだけ。なのだが、それは言わないことにしておく。


「帰りづらいのはありますけど、私はもう僧侶で、リタ達の仲間ですわ。だから昔の事情なんか気にすることないんです」


そこで、やっとリタの顔に喜色の色が浮かんだ。アルティナは相変わらず無愛想で表情があんまり変わらないけれど、先程のように変に心配されるのは心臓に悪いので、そのままで良い。



「それでは、サンマロウを目指しましょうか」


一行は下山し、サンマロウへの道を進む。










(華の街へ!)
01(終)




―――――
危ない危ない、女神の果実を貰い損ねるところだった←


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