第六章 06-2
「リタ、もう一度頼む。後は……俺が何とかする」
「分かった!」
更に呪文を唱えるために魔力を練り上げようとした、その時。
アルティナの方に向いていた番人の顔が、突如こちらに向いた。ぎくり、と体が強ばる。反射的に、足が一歩引いた。
「これは、ちょっと……」
ちょっとどころでなく、かなり危ない気がする。――案の定、石の番人がこちらへ向かってきている!
見かけによらず、意外と番人の歩くスピードは早い。石なのだから、もっと鈍いものだと思ったのだが、そんなことはない。
「リタ! あ、アルティナ早く何とかしてくださいませ!」
言いながら、カレンは槍を投げ付けるも、効果なし。完全にリタしか目に入っていない。
アルティナも、石を投げてみてが反応はなかった。
「この……こっち向け!」
剣を振るうも、やはり見向きもしない。やがて、リタに近づくと、ひび割れていない方の腕を上げ、そして振り落とした。
「うわわっ」
ひらりと、避けたは良いが、かかとが少しおおぶりな石でつまずき、尻餅をついた。頭上に大きな影が迫る。今度は石の足が振り上げられる。ヒヤリと背中に汗が伝った。
「こっちを向けっつってんだ!」
高く跳躍し、ひび割れた肩に剣を突き立てる。ピシリピシリ、とひびは更に首のあたりまで広がった。初めて、石の番人が苦悶の声を上げた。
「ぐ……許さん。この地を荒らすことは、許さんぞ……!」
番人の腕がアルティナを攻撃しようと動いたが、素早くかわされてしまい、結局は自分にダメージを与えることとなった。ひびが、更に広がって行く。
「ヒャダルコ!」
追い討ちをかけるように、氷の呪文が番人を襲う。形成を立て直したリタにより、亀裂は体全体に及んだ。すでに、ポロポロと石の破片が落ちはじめている。
「二人とも俺の後ろに下がれ! 一歩も動くなよ」
“この技”はかなり強力であるものの、その分コントロールも難しい。自分より前方にいれば、巻き込んでしまう可能性がある。それは何としても避けなければならなかった。
剣を空に突き上げる。雷にも似た光が剣に纏いつき、バリバリと音を立てている。そして、剣を横に構えた。
――これで、方をつける。
「ギガスラッシュ!」
稲妻のような閃光がほとばしり、石の番人を襲う。強力すぎる雷撃は番人を粉々に打ち砕いた。
「オ……オオ……」
番人だった欠片達は、紫のオーラを放ち、やがて跡形もなく消えた。残ったのは、番人が暴れた跡と、バラバラに砕かれた彫刻。
石の町の一角は、町を守ろうとした番人によって荒れ果てた姿に変わり果てた。
「倒した……」
ポツリと漏らしたリタの言葉で、アルティナは緊張が解け息をついた。体にどっと疲労感が押し寄せる。戦闘中、ずっと気にかけていた剣に目をやる。
先ほどの技――ギガスラッシュは武器にも相当の負担を強いる。現に、持っている剣にも亀裂が走り、最早使い物にならなくなっていた。
「……やっぱりな」
刃先を掴み少し力を入れただけで、剣はあっけなく折れてしまった。だから、この技は余程の時でない限り使わない、もとい使えないのだ。
「……それにしても、結局女神の果実はありませんでしたわね」
「うっそ、マジで?!」
突如、サンディがカレンの頭の後ろから飛び出した
。いつもはリタの肩が定位置で、いつでもそこから出てきていたものだから、未だサンディに慣れないカレンは飛び上がらんばかりに驚いた。
「ビックリしましたわ、そんなところにいらしたのサンディ」
「あぁ、ゴメンゴメン。や、だってカレンの方にいた方が絶対安全っぽくナイ? って思ってさー。で、そんなことより女神の果実ってば無かったワケ?」
「そうですわね、あの怪物を倒しても出てきませんでしたし……」
大概はモンスターを倒した後に出現するはずの女神の果実だったが、今回はそれがない。
「えーってことは何、空振り?! 全くこの苦労は何だったのヨー!」
「お前はほとんど何もしてないだろ……」
「あはは……って、あれ?」
アルティナの冷静なツッコミに苦笑したリタであったが、視界の角に人影が映った気がして、そちらに目を向けた。やはり、人がいる。
お年寄りの男の人の幽霊、あれは。
「もしかして……ラボオさん?!」
「ええっ、どこですのリタ!!」
あそこ、と指を差せば、老人の霊はスーッと滑るようにどこかへと歩いていこうとしていた。慌てて後を追いかければ、あのスライムのいた家の脇の地下へと通ずる階段を下って行ってしまった。
「こんなとこに、階段なんてあったんだね……」
というか、腕のある石の彫刻家はこんな構造の建物まで作れてしまうのか。素直に感心してしまう。
階段を降りると……奥に石の箱のようなものが置いてある。
その上に幽霊になった老人――ラボオはいた。
(もしかしてあれは、棺?)06(終)
―――――
石の番人が暴れたら、破壊力はウ●トラマン並だと思うんです←
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