間奏U 04-2
“天使”という言葉を聞いて、反射的に振り返る。女の人は、川の対岸へ着いた頃には姿を眩ませてしまっていた。
「……? アイツ、前にもどっかで見たか?」
「う、ん……天使界に帰る前、一回だけ」
あの時も、誰かを探していたようだった。
しかも、今の女の人の呟きで分かったことがある。
「あの人が探してるのって、もしかして……」
天使、なのだろうか?
だが、もしそうなのだとしたら、やはり……
「……やっぱり私って、天使には見えないのかな」
やるせなさを感じつつ、苦笑を漏らした。
そして、アルティナの隣で橋の欄干に肘をつく。
世界樹に祈りを捧げても戻ることはなかった翼と光輪。
あの時は不思議な夢を見て、不思議な声を聞いたのだけれど。
自分が天使なのだという証は、幽霊が見えることだけだ。
「私……このまま人間になっちゃうんじゃないかなって思うことがあるんだ。天使界に戻ってた時は、特に」
天使界に戻ったら何か変わるのではないかと思っていた。
だけど、実際は何か変化があったわけでなく、翼と光輪が無い、天使に戻ることは出来ない、という事実に打ちのめされるだけで。
「だからね……むぐっ?!」
「それ以上言うな」
何事かと思ったら、アルティナの手がこれから何か言おうとしていたリタの口を塞いでいた。
「人間にだって幽霊が見えるヤツはいるんだからな。俺だって、あの黒いの連れてなければ、羽もわっかも無いお前を天使だと信じなかった」
黒いの……とはサンディのことである。
「でもお前は、黒騎士の時も病魔の時も一生懸命人間を助けようとしてたし、今だって女神の果実を集めるために旅をしてる。だから……翼も光輪も無くても、お前はきっと立派な天使なんだろう」
言い切ると、アルティナはぱっと手を離した。そして遠くを眺めるように肩肘をつき、カラコタの町を一望する。
この行動が照れ隠しなのだと、気付いたのはその時だ。
外見なんて気にすることはない。人助けが天使の仕事。
「うん……そうだと、いいな。ありがとう、アル」
「別に……」
人間界に落ちて、人間に見えるようになって……最初は一刻も早く天使界に戻りたいと思っていたけれど。
「でもさ、人間界に落っこちて……まずはリッカに介抱してもらっちゃったでしょ、それからルイーダさんを助けにいって私も助けもらって、それに……アルにもカレンにも会った」
いつの間にか人間界に大切な人達が出来ていて。辛いこともあったけど、とても楽しくて。
「だからね、私……人間になるの嫌なわけじゃないよ」
天使に戻れて、姿が見えなくなっても皆を見守り続けるよう。
私達は“星空の守り人”なのだから。
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