天恵物語
bookmark


間奏U 03

「え、アルってカラコタ出身だったんですか」


リタ達が今いる場所は、ちょうど橋の真下。
義賊のアジト……らしいが、隣にはカウンターがあってお酒が並んでいてマスターらしき人物がいて……どうみてもパブにしか見えない。

と、カレンが言ったところ「盗賊のアジトをそんなおおっぴらに主張するわけないだろ? パブじゃあるまいし」と盗賊団のお頭――デュリオから返ってきた。


「なるほど、木を隠すなら森に……アジトを隠すなら、あえてパブにってことですわね……! これは一本取られましたわ」


「カレン、それちょっと違う気がする……」


ズレた見解をするカレンは、何だかさっきから体をそわそわとさせていた。
すると、その様子を見たデュリオがクスリと笑いを漏らす。


「こういうところは初めてかい、お嬢さん方」


冗談めかして言うと、デュリオは目を細めた。そしてカレンを指差し、ズバリと指摘する。


「それにアンタ……もしかしなくてもサンマロウの人間だろ。しかも上流階級の、結構に裕福な家で育った」


「なっ、何をいきなり……」


「その金髪と白い肌ってサンマロウに良くいるんだよな。それに、その口調はどう考えても育ちが良いとしか思えない」


「あ、あら、だだだからって推測で勝手に決め付けないでくださるかしら?」


明らかに動揺しまくりのカレンだったが、あくまで白を切る。別に問い詰めるつもりは無かったのか、デュリオは「そりゃ悪かったな」と軽く流した。


「にしても橋飛び出したと思ったら……あの朴念仁が、両手に花で帰ってくるとはな」


「帰ってきたんじゃねぇ。たまたま通り掛かっただけだ」


ムスッと返すアルティナだったが、デュリオは気にしない。「まぁ、お前何だかんだで女にモテたからなー」と、軽くアルティナを黙殺した発言をする。


「あの、カラコタ出身ってことはやっぱりアルは元盗賊だったり……」


「ん、ああ。俺が頭になる、えーと……四年前まではそうだったよな」


「………………」


よほど話したくないのか、この話題になるとアルティナはだんまりを決め込んだ。

デュリオの話によると、アルティナは四年前まで盗賊としてこの橋で生きていた。その後、何らかの経緯を経て盗賊から戦士へと転職し、セントシュタインにたどり着いたということだ。


「四年前って、まだまだ子供だったくらいじゃありませんの……。引き留めたりしなかったのですか?」


四年前と言ったら、アルティナは当時12歳。
デュリオは決まり悪そうに笑った。


「あー……まぁな。引き留めたかったのはやまやまなんだが……あんなことがあっちゃあ、な」


「あんなこと?」


「あんなことっつーのはアレよホラ、カラコタ橋が一度壊滅した……」


「デュリオ!」


話しだそうとするデュリオをアルティナが牽制する。


「「壊滅?!」」


思いがけない事実に、二人とも素っ頓狂な声を上げる。
その様子を見たデュリオは予想通りだった反応にふう、と溜息をついた。


「やっぱり知らないのか。あの話はしてないんだな、アルティナ」


「当たり前だ! あんな話、コイツらに聞かせてどうするんだよ」


あんな話、とは一体何のことだろう?
それに壊滅した、とはどういうことなのか……。


「カラコタ橋が壊滅って、どういうことですか? もしかして、アルティナが出て行っちゃったのはそれが原因……」


「まぁ、それが直接的な原因ってワケじゃないような気がすんだが、どーにも説明しにくいってーか……ってオイ、アルティナどこ行くんだよ?!」


「アル?!」


スタスタと一直線にドアへ向かうアルティナをデュリオが慌てて引き留めた。それに反応してドアの前で足を止めるが、振り返らずに扉を開けながら言い放つ。


「話すなら勝手に話せば良い。……俺には止める資格なんか無いんだからな」


そのまま出て行ってしまったアルティナを呆然と見送った後、改めて二人はデュリオと向かい合った。


「デュリオさん、一体どういうことですの? カラコタ橋が壊滅したのとアルティナはどういった関係がありますの……?」


「あー……カラコタ橋はな、一度ぶっ壊されたんだよ。そいつってのは、カラコタ橋をひどーく憎んでたヤツだったんだな。アルティナとは相棒みたいな関係だった……」


「あ、相棒……。あんな人にそんな方がいらっしゃったのね……」


「え、でもアルはカラコタに住んでたんですよね?」


橋を憎んでいたというアルティナの相棒。相棒というからには、結構な親しい間柄だったはず。ついには橋を壊してしまった相棒を見た時、アルティナはどういう思いだったのだろうか?


「ああ、どっちもカラコタに住んでた。アルティナはカラコタ出身だったが、相棒の方は、アルティナが拾ってきたんだ。名前はフィウメ。何でも、元は金持ちで裕福な暮らしをしてたらしい。栗色の髪を後ろで一つに括っててさ、とにかく色白で華奢[キャシャ]なヤツだったなー」


デュリオは目をすがめて言った。大昔のことを思い出すかのように、視線は遠くを見ている。


「ま、橋はぶっ壊されて何人か死んじまったがな、その他はだいたい無事だった。何でだと思う?」


いきなりの問いかけに戸惑った二人は、顔を見合わせたが、質問の意図が分からず困惑するばかり。


「何でって……それで満足したってことじゃありませんの?」


二人がなんとか導き出した返答も、首を振って否定した。


「いいや、違う。憎しみってのは、そう簡単に無くなるもんじゃないんだよ。フィウメなんか特に、町全体を憎んでたんだからな」


「じゃあ、どうして……」


リタが尋ねると、デュリオは何とも言えない複雑な笑みを浮かべた。










「アルティナが、殺したから」















(嫌いなカラコタ橋を守るために……)
(終)




―――――
またオリキャラ出ちゃうし、思いの外、話暗いし。
あ、これからカラコタ橋の歴史を捏造しまくりです←


prev | menu | next
[ 132 ]


[ back ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -