天恵物語
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第五章 15-1

「オリガさんの……お父様? ぬしさまが?!」


「そう……ぬしさまが言ったの。オリガさんは自分の娘で、幸せになってほしいんだ、って」


「だったら、何で娘飲み込んだんだ」


言っていることと、していることが矛盾している。リタ達には、ぬしさまの意図が全然分からない。
分からないならば、直接聞くしかない。


「……ぬしさま!」


「リタ……?! 危険ですわ!」


カレンが狼狽するもリタは全く気にせずに、声を張り上げ武器から手を放した。防具も下に置き、完全に丸腰の状態になってしまう。――これで、ぬしさまの警戒心が少しでも解ければ良いと思ったから。


「ぬしさま、オリガさんはあなたの娘なんですよね。だから、魚を浜に届けたんですよね……オリガさんが幸せに暮らすことを、誰よりも願っていたから!」


オリガの祈りにぬしさまが応えていたのは、つまりそういうことであったのだ。


「でも、それなら……オリガさんを飲み込んだのは、どうしてですか?!」


しかし、ぬしさまは答えようとしない。
一体どうすれば良いのか……その時、偶然にも村長がリタの視界にちらりと映った。
そこで、はたと気が付く。


「もしかして……それが原因なんですか、皆がオリガさんを頼るようになったから? ……答えてください、ぬしさま!」


ようやく返ってきた、少女の問い掛けに対するぬしさまの返答は……


「……お前達は村長の手下ではないのか?」


……だった。


「「「……は?」」」


予想していたものと全く違う言葉だったもので、三人の声は見事にユニゾンした。


「村長の手下? 冗談だろ」


心底嫌そうにアルティナが吐き捨てると、それが伝わったのか、その場の緊張が解けた。ぬしさまがようやく警戒を解いたのだ。
すると、ぬしさまが口を開き、なんと飲み込まれたはずのオリガが出て来た。
これには、リタとアルティナとカレン、そして村長も驚かされた。
当の飲み込まれた本人は、もっと驚いていることだろう。


「あたし……何ともない……?」


「オリガさん! 良かった……」


「あ……旅人さん! お怪我はありませんか?」


オリガがリタに駆け寄る。それが決定打となったようで、ぬしさまは臨戦の態勢をも解いた。頭上からは仄かな光が浮かび上がり、壮年の男が姿を現す。この人こそが、オリガの父親、村一番と称えられた漁師なのであった。


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