第五章 08-2
浜は、すでに地平線の縁が明るくなりかけていた。
「さてと、どうしたものかな……」
夜が明けるのをぼんやりと見ながら一人ごちると、突然肩からサンディが顔を出した。
「リタ、あんなこと言っちゃって良かったワケ?」
「……サンディ。私もそう思ってたとこなんだけどね……」
毎度ながらのサンディの神出鬼没ぶりにも慣れてきた。
しかも現れて早々、わりと的確な部分を突いたりしてくれる。
「これでオリガがハブンチョにされたら、どーすんのさ。確かに、あのぬしさまってヤツは何てゆーか……よくないモノかもしれないケド」
「じゃあ、お前はぬしさまを呼びたがってないヤツに呼び続けろって言うのか?」
アルティナの問いに「そーいうワケじゃないケドさー……」とどっちつかずな答えを返したサンディであった。彼女もまた分からずに迷っているのだろう。
「……確かに無責任なこと言ったって、思う。でも、どうすれば良かったの? オリガさんは、ぬしさまを呼ぶ力があって、でもこんな生活間違ってると分かってる。それに、もしかしたら女神の果実だって関係してるかもしれないし……」
海で魚が取れなくなったのも、ぬしさまが現れるようになったのも、地震の後の話だった。全ての異変が地震の後に起こっているのは偶然なのだろうか?
「思ったのですけれど……女神の果実をオリガさんが食べたってことはないのでしょうか?」
カレンの疑問に、なぜその考えに至らなかったのだろうと頭を抱えた。
「……そっか、それも有り得る。だけど……それならオリガさんは何を願ったのか……」
女神の果実によって、ぬしさまを呼ぶ力を得たのなら、オリガはそれを呼びたくないなどと言ったりするだろうか?
「オリガさんのことだから……浜で魚が取れなくなったのを見て、取れるようにとか願っちゃうかもしれないけど」
「“ぬしさま”が現れたのは地震の後すぐだって話だ。時期が早過ぎる」
埒が明かない。
結局、解決の糸口は見つからないまま宿屋に戻ることになりそうであった。
「とりあえず、オリガさんに黄金の果実を食べたか聞こう。あと、女神の果実が関係してるなら……私達が見つけだす」
全ての果実を見つけて集め、そしてそれを天使界に届けること。
それが、自分に与えられた天使としての使命だから。
(そして、夜が明ける)08(終)
―――――
さすがに三人をオリガ宅に泊まらせるのは窮屈だと思いまして……。
[ back ]