間奏T 05
「それから、またサンディに箱舟乗せてもらって、人間界に戻って、ダーマ神殿で早速女神の果実を回収してきた次第なんだけど……」
ダーマ神殿では大神官が失踪する事件が起こり、それを解決すべく奔走したわけであるが。
「アル、カレンさんって覚えてる?」
「……誰だ?」
「え、」
いっそ清々しいほどの即答。
本当に知らないのか、聞くとアルティナはハッキリキッパリと断言した。
「知らないものは知らない。あれか、シュタイン城のムカつく兵士だったか」
「違うよそれバレンって人じゃない?!」
一文字違いでした。
覚えているだろうか。黒騎士退治の際、城門を通してくれなかった頭の堅いというか面倒臭いというか、とにかく二人にとって嫌な印象しか残っていない(哀れな)兵士である。
「カレンはベクセリアで会った僧侶さんだよ!」
「…………あー、」
おぼろ気ながら思い出した……が、思い出したと言っても口うるさい僧侶だったくらいにしか覚えておらず。
そういえば金髪だったような……なかったような、と容姿までうろ覚えという始末。
バレンの存在は覚えていたというのに人間どうでも良いことばかり覚える、と非常に失礼な感想を持ったアルティナであった。
「で、その僧侶がどうした」
「ダーマ神殿でまた会って、一緒に事件解決したわけなんだけどね……」
大神官は、女神の果実の力の暴走により、邪神官と化してしまったのだと言う。なんとか元の大神官に戻すことはできたらしい。
「女神の果実も回収できたし、それは良かったんだけど……そうなんだけど」
いきなり歯切れの悪くなったリタに内心首を傾げながらも、アルティナは続きを待った。
「思いの外、大苦戦を強いられたっていうか、えーっと……旅芸人と僧侶じゃ、戦力に期待出来ないというか……旅芸人っていうか元天使なんだけどね。つまり、そう、戦力が不足してたんだよ!」
ここに来て、腹をくくったらしい。泳いでいた目線を上げて、アルティナを見据える。
そして、ガバッと頭を下げ、
「てことで、また私と一緒に来てくれませんかあ痛ぁっ!!」
……箒が頭に直撃した。
「いたたた……」
それは見事としか言いようのないタイミングで、箒は落ちてきた。
しゃがみ込んで痛みに頭を抱えていると、頭の上から必死に堪えようとする忍び笑いが聞こえた。
「……アル?」
アルティナが笑うのなんて、初めて見た。
ちょっとした笑顔とかなら見たこともあるが、アルティナが何かにウケて笑うとか、全然想像出来なくて。……まぁ肝心の顔は隠されて見えないが。
「……いや、悪かった。そうだな……」
腕を組むアルティナは、笑いの残滓の残る顔で、
「お前の一発芸に免じて付き合ってやるよ」
仲間に加わった。
(……いや、これ芸じゃないよ?!)05(終)
―――――
アルティナも、それはちゃんと分かってます。
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