洋服を買い終えるとあっという間に昼過ぎ。 ランチをしてから今度は日用品を買って、その後に布団も一式買った。 大きいものは今日中に宅配して貰えると言うので、先程その手続きをしてきた。 沢山歩いたので、今はカフェで一休み。 安室さんはアイスコーヒー。私はハニーカフェラテだ。 「あ〜やっぱり買い物は楽しい!」 「大丈夫ですか?疲れていませんか?」 「全然!安室さんこそ疲れてませんか?私の買い物にまで付き合わせてしまったので…。」 安室さんの買い物に来たのに、結局自分の洋服も買ってしまった。 前に悩んで買わなかった物がセールで安かったのだ。 ちなみに2着のワンピースで悩んでいたら、安室さんが選んでくれた。 「いえ、僕は大丈夫ですよ。色々買って頂いてありがとうございました。 トレーニングウエアまで買って貰ってしまって…。」 「そんなそんな!私も体力つけるのに身体動かしたいってずっと思ってましたし! 安室さんに着いていけるかはわかりませんが…気が向いたらランニングでも連れていって下さい。」 「勿論。いつでも行きましょう。」 安室さんは買い物中も、今も、色んな話をしてくれる。 最初は降谷零さんの方のお仕事の話。と言っても、信頼している部下の方の話しとか、お仕事のランチに寄る美味しいカレー屋さんの話。 そこのカレー屋さんは、福神漬けよりもラッキョウが合うらしい。食べてみたい。 ちなみに私もジャガイモはカレーの中にゴロゴロ入ってて欲しい派です。 他には潜入先の喫茶店の話。 安室さんは警察官の仕事の他に、喫茶店のアルバイトと、なんと探偵さんもしているそうだ。 流石にある組織の話はしてくれなかったけど。 喫茶店ではキッチンに立って料理を作っていると言っていて、料理が上手かったのも納得した。 喫茶店でのオススメを聞けば、「ハムサンドです。」と営業スマイルを向けてくれる。 キラキラ効果音がついてそうな営業スマイルだった。安室さん目当てのお客さんとか凄い多そう。 「ホントのお仕事と、喫茶店のアルバイター、探偵さん…大変ですね…そんなにいっぱい。」 「全部勉強ですから。…楽しいですよ。」 安室さんの眼が一瞬だけ、鋭く光った気がした。 「安室さんの住んでいる所って、探偵さんが沢山活躍するんですね。」 追加で頼んだシフォンケーキを頬張りながら、気になった事を聞いてみる。 こちらの世界の探偵と言えば、身辺調査とか浮気調査とか。別れさせ屋とかもそんな感じだった気がする。 「ええ。殺人事件を解決したりとか。」 「殺人事件!?そんな現場にも探偵さんが!? …こっちじゃ考えられない話です。警察の方が止めたりしないんですか?」 「警察に顔の利く探偵が多いので…止めたりはされませんね。あまりウロチョして捜査の邪魔になるような事をすれば止められてしまうかもしれませんが…。 僕が弟子入りしているのは眠りの小五郎と言って、寝ている間に事件を解決してしまう事で有名なんですよ。」 寝ている間に事件を解決ってどういうこと?? 寝言で事件解いちゃう的な??? 「他にも東西の高校生探偵に、怪盗キラーと呼ばれる小さな名探偵もいます。」 「え、怪盗!?怪盗もいるんですか!?」 「怪盗1412号。通称怪盗キッド。ビッグジュエルを狙う大怪盗です。 僕は怪盗は専門外なんですが…先程話した小さな名探偵がキッドキラーと呼ばれていますね。」 「怪盗…本当にいるなら見てみたいなぁ…。」 「おや、名前さんは、怪盗が好みですか?」 くんっと、安室さんの片眉が上がる。 しまった、降谷さんの本業は警察官で、怪盗は泥棒。降谷さんにとっては犯罪者で敵だ。 「え…あ、ちっ…違うんです!好きとかそう言うんじゃなくて!!こっちじゃ見れないからお目に掛かれるなら会ってみたいなと言う只のミーハー心で…!!! 怪盗とか、アニメとか映画の中の話だから…!!だから、えっと…その…………。」 段々と声が尻すぼみになっていく私。 ぶんぶん手を振って否定したが、警察官の前でなんて事を言ってしまったんだ…。 そんな私の頭に、ゆっくりと安室さんの手が乗った。 「すみません。」 さっきとは逆で、安室さんの綺麗に整った眉が下がっている。 「怪盗がいると聞いた時の名前さんが、今日1番の反応だったので…ちょっと意地悪してしまいました。」 ぽんぽんと、私を落ち着かせるように頭を撫でる安室さんの手。 頭を撫でられるなんて、何年もなかったことだから気恥ずかしくてムズムズする。 「…次また意地悪したら、安室さんの洋服全部私が着ちゃいますからね。」 「ふふふ…それは困りますね。」 「でも私……お話聞いて実感しました。 探偵さんとか、怪盗とか…きっと、他にもこっちとは違った物が安室さんの世界には沢山あって…。」 ちょっとだけ、安室さんが羨ましくなった。 「その世界には、比べ物にならないような濃い時間が流れていて…。」 私の知らない世界。どんな世界なんだろう。 「……そんな場所なら、絶対に帰らなきゃですね!」 私がそう言えば、アイスブルーの瞳が少しだけ揺れた。 「ええ、必ず。 守るべきものが、僕にはあるんです。」 私の知らない世界の話 (愛おしそうに、彼は笑った) [mokuji] [しおりを挟む] |