目を覚ませば見慣れた天井。いつもの自分の部屋。 昨日の事は夢だったのかなと一瞬思ったが、キッチンの方から漂う良い香りに、夢じゃない事を実感した。 「安室さん、おはようございます。眠れましたか?体調どうですか?」 「名前さん、おはようございます。お陰様で熱も下がりました。」 良かった。 昨日より顔色も良いし、大丈夫そうだ。 「キッチン、使わせて貰っています。」 フライパンを握る彼の手元が気になって、横から覗き込めばふわっふわのオムレツ。 バターの良い香りがする。 「お…美味しそう…!」 「お口に合えば良いんですが。」 あははと笑う安室さんは、ふわふわのオムレツをお皿に移すと、細かく切ったベーコンを焼きだした。 コトコト音がする小さな鍋の中はじゃがいものポタージュだろうか、こちらも良い香りがする。 テーブルにはカラトリーが既にセットしてあり、真ん中には綺麗に彩られたサラダ。 どれもこれも美味しそうで、お腹がきゅるりと鳴った。 「あと少しで出来るので、待ってて下さいね。」 安室さんがにこりと笑う。 恥ずかしい。完璧に聞こえてた…。 「「いただきます。」」 手を合わせてから2人で食べ始めた。 ふわっふわのオムレツは、ナイフで切ると半熟卵がとろりと出てくる。 ぱくっと口に含めば、口に広がるバターと優しい卵の味。 オムレツとはこんなに美味しい物なのかと驚いた。 「お…美味しいです…! 何これ何これ、今までで1番美味しい!! 安室さんお料理上手ですね!!!」 「ありがとうございます。お口に合ったようで良かったです。」 「このポタージュも凄く美味しい…!こんなに美味しいの作れるなんて、安室さんって魔法使いみたいですね。」 シーザーサラダの上には、さっき安室さんが焼いていたカリカリベーコン。ドレッシングも手作りらしい。 あの冷蔵庫の中身で、こんなに美味しい料理が出来るなんて。 「魔法使いだなんて…そんなに褒められると照れますね。 名前さんの為に作ったので、喜んで貰えて僕も嬉しいです。」 ニコニコとこちらを見て言う安室さんを見つめる。 顔も良くて料理も上手で、お仕事は警察官。これはモテそうだ。 きっと世の中の女の人が放っておかないんだろうな。 世の中にはこんなハイスペックな人がいるんだと感心しながら、美味しい料理を食べ進める。 「久しぶりに誰かと一緒の朝食で、私の為に作ってくれたお料理で、しかもこんなに美味しくて…凄く幸せです。」 「名前さん…。」 自分の為の食事を誰かが作ってくれる。それを一緒に食べる。 そんな些細なことにこんなにも幸せを感じるなんて思わなかった。 ゆらゆらと霞む視界に気づかないふりをして、ポタージュの入ったカップに口をつけた。 「それじゃあ、一度出てくるので待っていて下さい。」 「すみません。宜しくお願いします。」 「安室さん、すみませんではなく…」 「失礼しました。ありがとうございます。宜しくお願いします名前さん。」 「はいっ!いってきます!」 「いってらっしゃい。」 幸せな朝食を終えて、出掛ける準備をして、ひと足先に私だけ家を出た。 家を出るときに言われた「いってらっしゃい」の一言がすごくすごく嬉しくて、私の足取りはとても軽い。 お店までの距離を今朝の会話を思い出しながら歩く。 私が安室さんの為に何かをすると、安室さんはすぐに謝る。 それが凄く嫌で、朝食の時にお願いをした。 「すみませんではなく、ありがとうが欲しい」と。 驚いた顔の安室さんに、ちょっと押し付けがましかったかなと反省した。 でも安室さんは突然こちらに飛ばされてきただけで何にも悪くない。 勝手に色々やっているのは私だ。 だから、すみませんとか、ごめんなさいとかじゃなくて、ありがとうって言って欲しい。 そんな事をぐるぐる考えていたら、私を呼ぶ安室さんの声。 顔をあげれば「ありがとうございます。」と、優しく笑ってくれた。 家からほど近い距離の店舗に到着すると、ジーンズとTシャツ、パーカーを買った。 サイズはさっき聞いたので、なるべく無難な物を選ぶ。靴はスニーカーで良いかな。 安室さん、脚長かったからジーンズの裾が心配だけど今日だけ我慢して貰おう。 これから出掛ける時の分だけ買って、あとは駅前の大型店で好みの物を選んで貰えばいい。 小走りでレジに向かって会計をする。 すぐ着れるように値札を全て外して貰い、愛想の良い店員さんから袋を受け取る。 それを抱えてながら来た道を早足で戻った。 「安室さん、只今戻りました!」 「おかえりなさい。早かったですね。」 「待たせちゃ悪いと思って。」 おかえりなさいかぁ… 嬉しいけど、なんか照れるかも。 おかえりなさいの一言にムズムズしながら、安室さんに買ってきた物を渡す。 テーブルにノートパソコンが置いてあったので、また調べものをしていたらしい。 「一応無難な物を買ってきたつもりなんですが…気に入らなかったらすみません。今日の分だけなので、我慢して貰えると…。」 「いえ、僕は大丈夫ですよ。名前さんが選んでくれたんです。気に入らないなんてありえませんよ。」 「……………。」 「名前さん?」 「…あっ…じゃあ、着替えたらさっそく行きましょう!お天気も良いし、お買い物日和ですよ!」 私がそう言うと、「では僕も急いで着替えますね」と、安室さんは浴室に消えて行った。 お出かけしましょう (びっくりした…) [mokuji] [しおりを挟む] |