アイスブルーの瞳が、私を捉えた。 ゆっくりと起き上がったその人は、「ここは…」と呟く。起き上がった拍子に額に乗せてあったタオルがぱさりと落ちた。 「大丈夫ですか!?あの、あなたがこの部屋に倒れていて、熱があって…!」 「すみません…大丈夫です。」 緩く頭を振って立ち上がろうとすれば、ぐらりと傾く身体。 倒れないよう素早く手を差し出せば、もう1度彼が謝った。 「熱が下がるまで寝ててください。」 「いえ、見ず知らずの方にお世話になる訳には…」 「いいから!私の力じゃベッドルームまで運べなくて…フローリングだから身体が痛くなっちゃうかもしれないんですが…。」 彼の傍らに落ちていたのは間違いなく警察手帳と言うやつだ。 それを見たのもあるが、なんとなく自分の五感がこの人は悪い人ではないと言っている。 きっと何か事情があるんだ。話は熱が下がってからゆっくりすれば良い。 「ですが僕は…」 ああもうなんだこの人。強情なのか。 熱があるんだからここは一度諦めて、大人しく寝ていてくれれば良いのに。 「私の名前は苗字名前と言います。 ふるやれいさん、ですよね。ここにあなたがいた理由とか、色々聞きたいことはあるんですが、まずは熱を下げてからです!」 残業の疲れもあってか、少し怒気を含んだ声で捲し立てた。 先程見た彼の名前を呼んだ時、アイスブルーの瞳が大きく見開かれた。 「何で、名前を、」 「え…あ、すみません。あなたの傍にこれが落ちていたから…中に書いてあった名前が見えてしまって。」 そう言って落ちていたままの警察手帳を手渡すと彼は焦げ茶色のそれを指でなぞった。 手帳を見つめながら何か思案している彼。どうやら横になって寝る気は無いらしい。 もう一度強く言ってやろうかとも思ったが、倒れていた時よりも幾分かは顔色が良くなってきたのでこちらが折れるしかなさそうだ。 「横になる気がないのなら、声も枯れてるしせめて水分取ってください。これ、さっき冷蔵庫から出したばかりのお水です。」 彼の前に差し出すが、見つめるだけで受け取ってくれない。 「………こんなすぐに私の事信用出来ないと思いますけど、必要なら毒味もしますから…脱水症状起こす前に水分取ってください。」 少し水滴のついたそれを彼の傍に置けば、ゆっくりとした動作で手に取ってからキャップを開ける。 飲む前に一瞬悩んだように見えたが、諦めてくれたのか素直に飲んでくれた。 「これ、ありがとうございます。 …苗字名前さんと言いましたか。あなたに何点かお聞きしたい事があります。」 「はい。私が答えられる事なら。」 彼の真剣な瞳に、居住まいを正してから向き合った。 慎重に言葉を選ぶように彼が話し出す。 「僕はまず、建設中のショッピングモールにいました。そこで爆発事件に巻き込まれたはずなんです。」 爆発事件?何を言っているんだこの人は。 熱に魘されて夢で見たことと現実の区別がつかなくなったのだろうか。 「僕が待機していた場所から、至近距離での爆発でした。恐らく…いや、間違いなくあの爆発で僕は死んでいたはずです。 それなのに…目を覚ましたらここにいた。」 そんな話聞いたことが無い。 建設中のショッピングモールで爆発なんて事があれば、トップニュース間違い無しのはずなのに。 でも、こんな真剣な顔で嘘をついているようにも思えない。 「……………ここは、何処ですか?」 「ここは東京の〇〇区、〇〇です。」 「…そんな地名聞いたことが無い。僕が爆発に巻き込まれたのは杯戸町です。」 「ハイド町?そんな町聞いたことありません。」 「では米花町は?」 「ベイカ?すみません、それも聞いたことがありません。」 そう答えると、顔をしかめた彼が調べものをしたいからパソコンを貸してくれと言った。 テーブルに乗っていたノートパソコンの電源をいれて、パスワードを入力しながら横目で彼を見ると、手帳の傍に同じように落ちていた携帯電話で何処かに電話をしているようだ。 しかし電話口からは無機質な女性の声が漏れている。どうやら繋がらないようだ。 「どうぞ、自由に使ってください。」 彼の方へパソコンを向ければ、ゆるりと近付いて御礼を言ってからキーを叩き始めた。 足取りもしっかりしてたし、また少し熱が下がったようで安心した。 真剣に画面に向き合う彼を少し離れて見ていたが、残業疲れのせいなのか眠気が襲ってきた。 眠気覚ましに熱いコーヒーでも飲もうと思い、キッチンに向かった。 時計の針は動き出す (これからどうしよう) [mokuji] [しおりを挟む] |