「お帰りなさい、名前さん。」 「ただいま帰りました!」 ドアを開ければ、安室さんが笑顔で出迎えてくれた。はぁ…その笑顔が癒しです。 「今日は早く帰ってこれたんですね。」 「はいっ!今日は定時で帰って来れました!」 お昼が終わって、デスクに戻った私はハニーラテを飲みながら猛スピードで仕事をした。 キーボード叩く速さとか、たぶんここ最近1番だったと思う。ちょっと部長が引いた目でこっちを見てた気がする。 そんな努力の甲斐あって、定時ぴったりにパソコンをシャットダウンして帰ってこれた。 「お弁当、大丈夫でした?急ごしらえだったので、ちょっと品数が少なかったかなと思っていたんです。」 「そんなことないです!充分過ぎる位でした!お弁当もハニーラテもとても美味しかったです。あ、これ、安室さんにお土産です。」 「これは?」 さりげないロゴが入った濃いめのクラフト袋を安室さんに手渡すと、不思議そうな顔をしながら紙袋の中身を覗き込んだ。 「セロリのピクルスと、セロリとアンチョビのサラダです。会社の近くに新しいデリが出来てて、帰りに買って来たんです。 早く帰って来れたのは安室さんのお陰だから、そのお礼です。」 「僕のお陰だなんて大袈裟ですよ。 でも、ありがとうございます。セロリ、好きなので嬉しいです。」 あ、本当に嬉しそう。 大事そうに紙袋を抱えて、さっきよりも笑みを深くしたニコニコ顔の安室さんを見てほっとする。 喜んで貰えて私も嬉しい。 「先にご飯にしますか?一応用意は出来てますが…」 「あ、先にお風呂入ってきます。外、ちょっと暑くて汗かいたので。」 「じゃあ、ゆっくり入ってきて下さいね。」 「ありがとうございます!」 さて、お風呂お風呂。 「今日はナポリタンなんですね!」 「ずっと和食続きだったので、今日は気分を変えてパスタにしてみました。」 髪の毛を乾かしてから安室さんのいるダイニングキッチンへ戻ると、テーブルの上にはお洒落に盛り付けられたナポリタンが並んでいた。 具だくさんのコンソメスープと、私が買ってきたセロリのピクルスとサラダもある。 「パスタも好きなんで嬉しいです。いただきます!」 「どうぞ召し上がれ。」 くるくるとフォークとスプーンでパスタを巻いて口に運ぶ。 もちもちに茹でられたパスタと、なんだか懐かしい甘めのケチャップ味。 具はベーコンと玉ねぎとピーマンだけ。 こんなにシンプルなのに凄く美味しい! 「私、ナポリタンって自分で作るとケチャップの酸っぱさが残ってしまって…。でも安室さんのナポリタンはコクがあって程よい甘さで凄く美味しいです!」 「ナポリタンはケチャップをしっかり炒めて、酸味を飛ばす事が大事なんですよ。」 私と同じようにフォークとスプーンでパスタをくるくる巻きながら安室さんが言う。 なるほど。ケチャップを炒めるのがポイントなのか。今度やってみよう。 安室さんの話を聞きながら、ナポリタンをもう一口。うん、本当に美味しい。 「あとはケチャップに粉チーズとハチミツを加えてるんです。」 「粉チーズとハチミツが入ってるから、このコクと程よい甘さになるんですね。」 「今日は甘めに作りましたが、粉チーズとハチミツをウスターソースと赤ワインに変えて黒胡椒を多めに加えればワインにぴったりのスパイシーなナポリタンにもなりますよ。」 「それも美味しそうです!」 ワイン…お酒かぁ。 そう言えば明日飲み会あるんだよね…嫌だな。思い出しちゃった。 って事は明日は安室さんのご飯が食べられないって事か…えええ悲しい。悲しすぎる。 何とかして断れないかな…無理だよね…。 やっぱり最初から断っておけば良かった。 だってお店の料理よりも安室さんの料理の方が美味しいに決まってる。 それに、苦手な笹川さんがいるのも憂鬱。 名前2は笹川さんの事カッコいいって言ってたけど、私からすれば…。 「安室さんの方が絶対カッコいい。」 「…は?」 ポロリと、目の前の安室さんがセロリのピクルスを落とした。 あ、良かった。お皿の上に落ちたみたい。 セロリから安室さんへ視線を移せば、ポカンとした顔でこちらを見ている。 あれ?もしかして…… 「私、声に出してました?」 コクンと安室さんが頷く。 ………やってしまった。無意識に声に出してた。 「えっと…実は明日仕事終わりに飲み会があって。 そこに来る人の事を私の同期がカッコいいって言ってたんです。でも私、その人よりも安室さんの方がカッコいいのになーって、思っ、ちゃって…。」 アハハと笑えば、ゴホンと安室さんが咳払いした。珍しくほんのりと頬が赤い。 「名前さんにそう言って貰えるのは嬉しいんですが…面と向かって言われると流石に少し照れますね。明日、飲み会なんですか?」 「そうなんです。ごめんなさい、明日の夜は外で食べてきます。」 「わかりました。会社の付き合いも大事ですから。大丈夫ですよ。」 安室さんの言うように、確かに会社の付き合いも大事だけど…………行きたくないんだよなぁ。 そんなブルーな気持ちを、コンソメスープと一緒に喉の奥へ流し込んだ。 |