一目見て通じることもある。

「おはよーえぶりわーん」

なんて適当にテンションを上げてクラスに入ると、クラスメイトはくすくす笑いながらおはようって返事をしてくれた。
よしよし、大丈夫そう。バレてない。

自分の席に辿り着くと、陽介はいるけどまだ公平の姿がない。あれ?寝坊かな?

「ねね、陽介」
「おはよ、さあら。どした?」
「公平は?」
「朝飯食ってねーからつって購買行ってる」

そうかー。それなら戻ってくるのはSHRギリギリかな?だったらバレないかもしれないー。ラッキーだね!鼻歌も歌っちゃうもん。

「今日、お前」
「んー?」
「なんかテンション高い?」
「そう?化粧のノリが良かったからかなー」
「すっぴんじゃねーか」
「バレた?」

ニコニコしながら、陽介と話してるとガラリと扉の音がして、公平が入ってくる。

「お、ギリギリじゃん。弾バカ」
「意外と混んでた……さあら、おはよ」
「あ、公平!おはよー!」

スマホを見ながら顔をあげずに公平に返事をする。バレてない、よね?大丈夫だよね?
やましいことがあるとなかなか相手の目は見られないものだよね……

とか考えていたら。

「おい、さあら」

ドキッ。真横に公平が立ったのが気配でわかる。声もいつもより低い。

あーあ……

「うう」
「隠せると思ってんのか、バカ」
「だってぇ」
「だってもクソもねーの。ほら行くぞ」
「やぁだぁ」

グイッ引っ張られた勢いで、椅子が音を立てた。で、私の体は一気に立ち上がるんだけど。

あ、ダメかも。

くらりと、頭が、視界が回って、私の意識はそのまま闇の中。


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え、いきなり痴話喧嘩?どしたのお前ら。
なんて悠長に考えてたら、腕を引っ張られて立ち上がったさあらはそのまま、気絶したらしくて、弾バカにもたれかかって目を閉じてた。
え?は?なにが起きた?え?

「槍バカ、悪いけどさあら保健室連れてって俺らそのまま早退するわ」
「お、おう。大丈夫か?」
「こんな熱あんのに無理矢理学校来てるからだよこの馬鹿」

はぁ、と弾バカのでけぇ溜息が教室に響いた。体調悪かった?すげぇ元気そうに見えたけど。
うわぁ、マジで全然わかんなかったって。クラスメイトもザワザワしてるもん。

「荷物、俺運んでやろうか?」
「助かる」

グッとさあらの身体を抱え上げた弾バカは、さすがにキツそう。そりゃーそうだよな。俺ら今生身だし。

弾バカとさあら、二人分のカバンを持って
歩き出した背中を追う。
因みにお姫様抱っこを当たり前のようにしたせいで、クラスは勿論。すれ違う奴らまで、キャーキャー言ってるけど、まぁそれはしゃーなしってことで。

「大丈夫かよ、家まで帰れんの?」
「さすがに無理。帰りは換装するわ」
「トリガー私的利用」
「こいつ歩かせるくらいなら減点くらった方がマシ」
「そりゃそーだ。謝る時は一緒に謝ってやるよ」
「サンキュ」

保健室に2人と荷物を押し込んで、教室までの帰り道。乗りかかった船って言うじゃん?
ポケットのスマホを取り出して、ボーダー本部の忍田さんを呼び出した。

「しのださーん、ちょっとさあらが倒れちゃって、特例ってことでさ、後でちゃんと謝るから、出水のトリガー使用見逃してやってよ。……うん、おっけー。伝えとく。米屋、りょーかい」

俺、ほんと良い奴だよなぁ。感謝しろよ。


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……
…………
………………

あれ?どーこ、ここ。
あ、自分家だ。

一瞬わかんなかったけど、よく見たらいつも見てる天井だったー。

「……公平?」

ゆっくりと体起こすと、頭がくらくら。これはダメだ。結局ぼすんって頭は枕に逆走しました。

しょうがないから、きっとここまで連れてきてくれたであろう人の名前を呼ぶ。
怒ってるんだろうなぁ。怖い顔してたもん。

「あ、起きた?」
「公平ー」

キッチンの方から声がして、顔をのぞかせた公平。その表情は……

「おこってる?」
「もう怒ってねぇよ」

いつの間にか、私服に着替えてる公平がベッドのすぐ近くまで来てくれた。あ、そういえば私も普通の服だ。着替えさせてくれたんだ。
おこして、おこしてと手まねきすれば、ちゃんと体を支えて起こしてくれる。好き。

「公平、ごめんね」
「そう思うんなら、家出る前にちゃんと呼べ。登校中になんかあったらどーすんの?」
「ごめんなさい……」
「おー。ちゃんと反省しろ」
「はぁい」

はぁ、と大きなため息を吐き出しながら、ぎゅうとやさしく、強く抱きしめられて。
熱のせいでふわふわの私の涙腺は、普通でもすぐ崩壊するのに今はもうだめ。
うわぁんと泣き始めると、公平はさらにギュッて腕に力を込めてくれた。

「ただの風邪だから一日寝ときゃ大丈夫だって。医者が言ってた」
「病院も連れてってくれたの?」
「そう。すげえ大変だった」
「うう、ほんとごめんなさい」
「良いけど、お前ほんと治ったら覚悟しとけよ」

ニヤリって笑う公平は、やけに色っぽくて、こんな時なのにドキドキした。
そして、頑張って作ってくれたお粥はちょっとしょっぱかったけど、うれしかったし、おいしかった。

「ねね、公平。よくわかったね、熱あるの」
「とーぜん。一瞬で分かった」
「愛だね」
「そーいうこと」

さあらのかぜのなおしかた そのに!


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