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「じゃあ、俺とクロードが『アリオト』で、シーザと俊成が『メグレズ』で、ラルフが『ドゥーベ』で、トロアと康太が『ミザール』で、」
「僕が『ベネトナシュ』」
「……え? ベガが?」
「ああ。なんなら、見せてあげよう」
ベガは左手を首に当てて、何やら呟いた。
すると、首の周りに、あの点線模様が現れた。
満月の光に照らされて、彼女はまるで、消えてしまいそうな心地がした。
「これが証拠だ。――歩真、」
「ん?」
「この模様、何に見えるかい?」
「……その質問、正直に答えていいのか?」
「いいんだ。君がそう聞いてくるということは、多分それが正解だ」
「そうか。俺は、それ、……首輪に見える」
「そう言うと思った。僕もそうだと思っていたから、人前では魔法を使って隠してきたんだ。でもさ、最近、本当に首輪じゃないか、あるいは手錠、足枷、腕枷じゃないかって思うようになったんだ」
「と、いうのは」
「もし僕らが、あの時の子供達の生まれ変わりだとしたら、というのが前提だけど。――彼らは、神様に捧げられるはずだった存在だった。つまり、神様は、十年に一度の捧げ物を楽しみに待っていたんだ。ところがその年は、捧げ物は届かなかった。現世に留め置かれたんだ。
ここで、二通りの考え方が出来る。
一つは、神様が反省して、もうこれ以上貴重な命を頂く訳にはいかないと思って、魔法を彼らに与える代わりに、それは神様から与えてやったという意味で模様を残したか。
もう一つは、神様はやっぱり怒っていて、無理やり彼らをあちらの世界に引きずり込もうとしたけれど、点線模様が枷となって、結局今まで出来ずにいるか。個人的には、後者の考え方の方が好きだけどな」
「それじゃあ、もし、この点線模様がなくなったら……」
「世界は滅びるだろうね。でも、案外何も起きないかもしれない。そもそも、何で点線模様なのかも分かってない。真相は北の森の闇の中だ。――で、話は変わるけど、君はあの子に――長川侑に、何かアクションを起こしたのかい?」
「起こしてない。出来るものなら、とっくにやってる」
長川侑――それは俺と同じクラスの子で、俺の好きな子で、恐らく、ベガのドッペルゲンガー。
『地球(テラ)の僕とも、仲良くしてな?』と、ミリエラから地球に帰る時にベガに言われた一言が、頭の中でリフレインする。
「そうだと思ったよ。ま、その想いまで伝えられなくてもいいから、彼女とのパイプだけでも作った方がいい」
「どういう意味? ていうか、何で彼女の名前を」
「敵を作らない方がいいってことだ。地球(テラ)に来てから一週間ぐらいが経とうとしてるけど、その間に君の周りを色々と調べさせてもらった。何だか、不穏な空気がすると思ってね。そしたら、将来血を見る事態になる可能性が見えてきた」
「え!?」
「あくまでも可能性だ。だけど、その確率は恐らく高い。しかも、君も既に、その渦に巻き込まれている」
「だったら、俺はどうしたら……」
内心焦る俺の肩に、ベガが右手を乗せてきた。
「今焦る必要はない。争いを回避する方法は、確実にあるはずだ。多分、この先もしばらくお世話になるだろうから、その間に何とか情報を集めてみる。だから、君は学業に専念しな。分かったか?」
「……はいはい」
俺が返事をすると、ベガの右手が肩から離れた。首の模様は再び隠されていた。
「さて、そろそろ睡眠に戻るか」

                  ◆

結局、それから一ヶ月ほど、九人は居座った。
その間、週末になる度に色々なところに出掛けたが、ドッペルゲンガーと会うことは一度もなかった。
俊成からの写真も届き、これからミリエラでどうするかの計画も立ったということで、九人はここを離れることを決めた。

「いやー、本当にお世話になりました」
九人を代表して、ミッシェルさんが言った。
「いいえ、こちらこそ、楽しい時間を共に過ごせて良かったです。ありがとうございました。また機会がありましたら、いつでも遊びに来て下さい。お待ちしています」
「ええ、その日を楽しみにしていますよ。どうも、ありがとうございました」
「「「ありがとうございました!!!」」」

大量の荷物を持った一行が、次々と水の張られた箱の底に消えて行く。
その先は、未来永劫戦争に参加しないと決めている中立国らしい。
皆が行った後で、ベガが最後に残った。
「最後に、どうしても伝えたいことが二つある。一つは、トロアのこと。あいつが遊園地で買った物、結局知らないままだろ?」
「ああ、そういえば、確かに」
「あいつね、イルカの抱き枕買ったんだよ。こっちじゃ恥ずかしいから、向こうに帰ってから使うって言ってた」
「何だそれ。可愛いにも程があるよ」
「同感だ。で、本命はこっち。遊園地から帰った晩のこと、覚えてるか?」
「もちろん」
俺がそう言うと、彼女は封筒を差し出した。
「それで、色々と調べた結果だ。詳しくはそれを読んで欲しいけど、僕から絶対に直接言っておきたいことがある」
「……何?」
彼女は、深呼吸して、言った。
「流血事態になることは、確実に避けられない。けれど、たとえそうなったとしても、君と同じ点線模様のある奴には、絶対に手を出すな。むしろ、協力して乗り越えろ。いいな?」
「はいっ!」
俺は思わず敬礼をした。
「その調子だ。じゃ、また生きて会おう」
ベガは箱に飛び込んだ。やがて箱は消えた。

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