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夜明けと同時に、俺を先頭にして、革命軍は城を襲った。
お父さん――王様は『Ark』で脅して説得していたから、後はさっさと降伏して王政廃止、という形だけの革命だった――はずだった。
というのも、ここで思わぬ、いや、忘れていた存在が火の粉を吹っかけてきたんだ。
王家を支えていた貴族だ。
革命軍を恐れて逃げ出すと俺は踏んでいたけど、貴族の方も色々と不満が溜まっていたみたいでね。
『革命に乗じてクーデター起こして、王家滅ぼして自分達が政治をやろう』という空気になっちゃって。
勝手に武装蜂起して、民衆の革命軍を押しのけて城の中で暴れ始めたんだ。
俺は貴族と戦いながら、革命軍に『貴族が暴れ始めたから、先にそっちの処理に向かってくれ』って指示を出したんだけど、指示が行き渡る前に貴族の一団が父とロールのいる部屋になだれ込んできてね。
俺はもうダメだと思った。
こんな時に限ってロールは体調が悪いし、父もあまり戦わずに育ってきたから、剣術の得意な貴族相手に対等にやりあえない。
仕方が無いから、二人をベガとアルタイルのところに転送して、俺が、二人がいた部屋に行って、仮面を脱いで降参したんだ。
『もう王族側は戦わない』とね。
結局、『私達が王族を降参させた』とか言って、貴族が手柄を全部持っていってしまった。
俺は牢屋行き。
革命軍は不満を言うけど、その声は貴族に全く届かない。
貴族側は俺の父と兄貴も探していたけど、国外逃亡のことばかり考えて、城下町で一般民衆が匿っているという考えは全く無かったようだから、見つけることは出来なかった。
そうこうしているうちに、王家の中で唯一残っている俺が処刑されることが決まった。
処刑の時間は午前十時。
城の前の広場にギロチンが用意された。
民衆は朝早くから、王族の終焉を一目見ようと広場に集まってきていた。
九時四十五分、俺は牢屋から出され、広場に連れて行かれた。
民衆からは皮肉ったり、罵倒したりする声があがった。
でもその中に、あの名前を叫んだ人がいたんだ。
『ミミック! 革命軍のボス、ミミックじゃないか!!』
民衆は一瞬静まり返って、再びざわついた。
『ミミック!? あのミミックだと!?』
『確かに王室関係者だとは言っていたが、本当に王家の人間だったのか』
俺は、固まってしまった貴族を殴って、魔法で手錠を外した。
そして自分から、民衆の前に躍り出たんだ。
『皆さん、聞いてください。今、王家の人間である私のことを、革命軍のリーダーである「ミミック」だとおっしゃった方がいましたが、それは事実です。ここで、皆さん方に二つの選択肢を与えましょう。一つは、私を王家の人間として、この場で殺してしまい、貴族に政治を完全に委ねるか。もう一つは、革命軍のリーダーとして生かして、貴族を政治から追放し、あなた方と私の手で新しい国を作るか。さあ、どちらを選びますか?』
『そりゃもう、革命軍を引っ張ってくれたあなたを生かすに決まっているでしょう!』
一人がそう言って、他の皆も『そうだそうだ』と叫んだ。
一部の人が油断していた貴族に襲いかかって、その隙に俺は民衆の中に入っていった。
でも、貴族側も頭が切れる奴がいたみたいでね。
俺が民衆の中に入っていったのに気付いた貴族の一人が、大声をあげたんだ。
『逃がすな! 他の奴を犠牲にしてもいいから、クロードを逃がすな!』とね。
すると、どこからともなく軍隊が現れてね、俺を民衆ごと囲い込んでしまった。
あらかじめ洗脳して、待機させていたんだろうね。
でも、ここで引き下がるような俺じゃない。
俺は魔法を使って、民衆の上に浮き上がった。
軍は最新式の銃を構える。
そこで俺は、『Ark』を出したんだ。
効果は抜群だったよ。
『Ark』を見ただけで、恐らく見た目もその効果も知っていた兵隊さんは気を失って、俺が『これはあの「Ark」だ』と言えば、貴族達もバタバタ倒れていった。
それを見届けてから、俺は『Ark』をしまって、民衆に声を掛けた。
『今のうちに逃げろ』ってね。
皆が一斉に走り去ったのを見届けて、だらしない姿になっている貴族を殺って、兵士の洗脳を解いて、ベガとアルタのところに行った。
後は想像の通りだ」

そうこうしている内に、五日が過ぎた。
トロアの体調も良くなり、一安心した。
そんな土曜日の夜、飯の後に母が何やら封筒を持って来た。
「母さん、何それ?」
俺が聞くと、母は微笑みを浮かべて言った。
「遊園地のチケット、十三人分よ」
途端に部屋が騒がしくなる。
「これだけの人が集まったんだ。せっかくだから、皆でパーッと遊んでもいいと思ってね」
父が続いて言う。
「本当に、構わないのですか?」
異世界組で最年長、クロードとアロルドの父・ミッシェルが尋ねた。
「ええ、構いませんよ」
俺の父は、丁寧な口調で言った。

ひとしきり騒いで、朝が早いので早く寝た。

             ◆

翌朝、午前五時半。
いくつものアラームが一斉に鳴り響き、雑魚寝をしていた俺達は跳ね起きた。
それと同時に、何故か同室で寝ていたはずのベガが部屋に入って来た。
「おはよー」
「おはよう。先に起きてたの?」
「まあな。朝の起動に時間が掛かるからね。――おーい、アルタ、二度寝すんな」
まだ眠たそうなアルタイルを叩き起こして、ベガはダイニングのある一階へと連れて行った。
「さすが、ベガだな。ウチのアニキ達とは大違いだ」
そう言ったのは、寝癖がひどいトロアだった。
「アニキ達って、『Ark』を取って来た二人のこと?」
「ああ。あいつら、俺に対して過保護なんだよ。もう俺も二十三なのにさ……。置いてきて正解だったよ」
トロアは、遠い目をして嘆いた。
けれど、そんな彼とは対照的に、俺はトロアの年齢にびっくりしていた。
ずっと、『かなり大人びた中学生』と思っていたからだ。
なんせ、まるで少年のような顔つきと服装だ。
間違えて申し訳ないと思っていると、ボーッとしていたらしく、向こうから声を掛けられた。
「あ、もしかしてまだ十代って思ってた?」
「ま、まあ。申し訳ない」
「いいんだよ、よくあることだし。けど、大人だからっていって、気、遣わなくていいよ。今まで通り話し掛けてくれた方が、俺もラクだし、な?」
「……分かったよ」
「じゃ、俺達もそろそろ行くか」

朝食を食べ、俺達は二台の車に分かれて乗った。
父が運転する一号車には、俺の兄貴の蒼真(そうま)、ミッシェルさんとアロルド、クロードの親子、シーザとサラのカップル。
一方、母が運転する二号車には、俺とベガ、アルタイルの姉弟、ラルフ、そしてトロア。
午前六時半。
隣県の遊園地に向けて、約二時間
のドライブが始まった。

……のだが。

――ああ、分かっていた。
これだけ濃いメンツが集まって、何も起こらないはずがなかった。

出発から五分後。
俺のケータイに、兄貴から電話が掛かってきた。
俺の父がケータイを家に忘れたから、先に行ってくれ、とのこと。
母がため息をついたのは言うまでもない。

一時間半後、今度は高速道路で渋滞中にラルフが腹痛でサービスエリアのトイレにダッシュ。セーフ。
その時に、アロルドがお小遣いを忘れたことに気付く。これはアウト。
S

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