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歩真が地球に帰ってから数ヶ月。
ミリエラのとある大陸は、混乱に包まれていた。

デルタ王国の次期国王、シーザ・デルタが、貴族の令嬢である許嫁との結婚予定を破棄し、一般女性と結婚して王家離脱。
両親は激怒。
ルーラ帝国の次期皇帝、ラルフ・ルーラが現皇帝の汚職を告発し、そのまま失踪。
そして、大陸最大の国・ルテンバー王国でも、革命が発生し、王族や貴族内の不満も爆発してクーデターも勃発。
王家一族は行方不明。

だが、どの国も明らかにしていない、三国共通の原因があった。
『Ark』だ。
『Ark』は、物事が、時によっては世界が、使用者の意のままになるという、恐ろしい代物。
それを、それぞれの事件の中心人物が使っていたのだ。

そして、その重要人物達は今、

「逃亡のついでにハネムーン」
「反逆罪で追われてる」
「国にいても殺されるから」

「……何をやったんだ、お前ら」

地球の上野家にいた。




Ark 番外編という名の後日談





あ、上野歩真だ。
何ヶ月か前に、『Ark』と、とある国の王子を探しに異世界に行ってたやつだ。
地球に帰ってきてからは、しばらく平和に過ごしていたんだが……。
今、ものすごく困っている。

イチャイチャしてる婚約済みのカップル――シーザ・デルタとサラ。
それを見てため息をついている新郎の友人――ラルフ・ルーラ。
元王族の兄弟とその父親――アロルド、クロードとミッシェル。
さらに、「皆が行くから俺らも来た」という姉弟――ベガとアルタイル。
そして、何故か熱さましを額に貼って、ベガの膝の上で寝ている殺し屋――トロア。

こいつらが皆、俺の目の前にいるのだ。

「んまあ、色々とね」
トロアの髪を撫でながら、ベガが微笑んで言う。
「色々って……」
「細かいことを言うと長くなる、ってことさ。聞きたかったら話すけど」
「いや、ゆっくり話してくれたんでいいよ。その様子じゃ、皆しばらく帰れないんだろ?」
「ま、そうだね。てか、ごめん。『皆で地球に行こう』って連絡取り合ってたら、こんな数になっちゃって」
クロードが申し訳なさそうに言う。
「いいよいいよ。俺も来てくれて嬉しいし、寝るところも一応あるから。ゆっくりして行け」

……という訳で、九人は俺の家にしばらく泊まることになった。
しかし、家がこのあたりでも有名な豪邸じゃなかったらどうする心算(つもり)だったのだろうか。

彼らの言葉は地球でも通じるらしく、俺が学校に行っている間、皆は専業主婦の母に連れられていろんな所に行ったらしい。
羨ましい限りだ。
食事、特に夕食は、久しぶりに母の本気を見た。
そらそうだ、元々いた俺の家族四人と異世界人九人の計十三人。
いつも通りの食事なはずがない。
父と兄貴も最初は驚いていたが、事情を話すとあっさりと納得してくれた。

時間が合う時に、それぞれ話を聞いた。
まずは、シーザとサラの夫婦(でいいのか?)。
サラは母と二人で買い物に行っていたので、シーザが語ってくれた。

「俺さ、一般庶民に生まれたかったんよ。
王族暮らしは羨ましがられるけど、俺の場合はスパルタやった。
親がどうしても俺を立派な国王にしたくてね。
それに、『リリア』って名前の許嫁(いいなずけ)がおったんや。
向こうは結構俺のこと気に入っとったらしいけど、俺は全く興味が湧かんかったんや。
何でか、っていったら、他に好きな子がおったけんや。
親が俺にフルートを習わせてたんやけど、ある時から普通の女の子が一緒にレッスンを受けるようになったんや。
で、あろうことがその子、つまりサラに一目惚れしてね。
でも、王族と一般庶民や。身分差の危険な恋に、俺は手を出せんかった。
そこに入ってきたんが、ラルフからのお誘いや。
俺は即座に乗った。
たまたまその日もフルートのレッスンがあったんやけど、終わった後に告白したんや。
そしたら、両想いやった。
結婚の話もしたら、あっさりとOKが貰えてさ。
それで、お前らと一緒に『Ark』を探しに行って、帰ってきて。
帰ってから一週間後が俺の誕生日で、その時に婚約発表も一緒にやる予定になってたけん、俺はこっそり彼女と連絡を取りながら、作戦を練ったんや。
それで、当日。
まず、俺の誕生日パーティーが開かれた。
それから婚約発表に移ったんや。
大きなホールの前に、俺とリリア、二人が並んで座った。色々と挨拶があって、俺の台詞の番が来た。
俺はこう言ってやったんや。
『この度は、私達の婚約発表にご出席頂き、ありがとうございます。しかし、私は彼女と婚約するつもりはありません』
当然、来とった客はどよめいた。
お父さんが『おい、何を言ってるんだ!』と叫んだ。
そこに、リリアの金切り声が響いた。
『いきなり何を言うのよ! 私はずっと、あなたのことを愛していたのに!』
そう言って、彼女は突然立ち上がって、ワインをぶちまけ、俺に殴りかかろうとしたんや。
俺は魔法で、彼女の動きを封じた。
ついでに、他の人もうかつに動けないようにしといた。
そして、俺は言ったんや。
『確かに、貴方は私のことを愛していたかもしれません。ですが、私にとってはただの許嫁。私は最初から、貴方のことを愛してはいなかったのです。それと、もう一つ。私は彼女以外に、婚約を約束した女性がいます。身分は一般庶民です。ですので、本日付でその方と婚約し、リリア様との婚約を破棄します。また、これに伴い、』
『私は王家を離脱します』
会場の空気が凍るのが分かったよ。
俺はそれにとどめを刺すべく、『Ark』をそこに召喚したんや。
『もし、これらを受け入れる用意がないのならば、この箱を解放するかもしれません』
俺はそう言って、『Ark』を仕舞って、俺以外の全員に掛けていた魔法を解除して、瞬間移動の術を使ってサラのところへ行ったんや。
彼女の家族には話を通して、許可も貰ってたから、そこで改めて簡単な結婚式をして、国を出たんや。


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