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◆
「悪い、待たせた」
僕、優子は、街中にある映画館へと急いだ。三人の少年がいる、僕の仲間だ。弟も誘ったが、「興味がない」と断られたので、今日は四人だ。
「珍しい、優子が遅刻するとか」
一番背の高い、遠藤真樹(リッキー・ミルトリー)にそう言われる。
「あの、昨日仕事だったんだよ。それで寝坊した」
「それはお疲れ。あ、じゃあ、朝飯は食べてなかったりする?」
「するね。誰かお菓子か何か、持ってはいないか」
「俺、チョコか何か持ってた気がする」
天然パーマが特徴的な柴田渉(ローリー・ミルトリー)が、ポケットを探り出す。この人のポケットからは、実に色々なものが出てくる。魔法とかじゃなくて、単に入れぱなっしなんだろう。チョコレートとあめ玉が出てきた。
「あった」
「サンキュ。そうだ、チケット買った?」
「まだだよ。揃ってから買おうと思ってて」
真樹が答える。
「じゃあ、揃ったんだから買いに行こうよ。人気ある映画だし、席埋まっちゃうよ」
渉がそう言って先に行こうとするので、僕達もついて行く。だが、一人だけ、立ち止まってきょろきょろしているのがいる。坂口阜(とおる)(サム・ミルトリー)。
「阜、どうした?」
僕が声をかけると、彼は呟いた。
「……誰か、来る」
その呟きを、僕達は正確に聞き取ると同時に、不穏な空気を近くに感じた。
――めんどくさいことになるな。タイミングの悪い。
「最近、この辺りで、俺達の仲間をシメてんのは、お前らだな?」
この街の不良グループの一つ。身につけている上着が赤であるのが共通点。近頃よく騒ぎを起こして、その度に僕達が事態を収めに行っている連中だった。しつこいな、この人達。しかも見た感じ、今日の相手はガタイが良さげだ。それがざっと十人ぐらい。
「まあ、そうだけど。でも、お前らさあ、僕達に勝ったことあんの?」
僕はあえて挑発するような口調で。怒りを高めて本気でかかってきてくれた方が、僕達としては逆にやりやすいのだ。
「ねえよ。でもな、今までお前らと殴り合ってきたんは、俺達の中での下っ端でよお。今日は強いの揃えたからな。あと、そっちは聞くところによると五人組じゃねーのか?」
それなら余裕だな、とリーダーらしき男はふんぞり返る。アホか。人数は関係ない、総合力と連係プレーだっての。
「一人ぐらい、いなくても、こっちは問題ねえよ。やるか? やりたいだろ? そのために来たんだろ?」
「あったり前じゃねーか」
僕は後ろに控えていた三人を見る。常に備えているのだ、問題はない。
「なら、受けて立つよ。負けても知らんけど」
もう一度、今度は身体ごと向き直って。
――魔力、解放。
◆
扉の向こうは闇、廊下の明かりは消えている。日本とイタリアにはもちろん時差がある、日本が朝なら、ここは真夜中だ。
物を召喚する魔法は得意だ。懐中電灯を呼び出して、床を照らしてボスの部屋へ。重厚な扉をノック。
「どうぞ」
「お邪魔します」
丁寧なお辞儀は、身体に染みついていた。
「久しぶりだね、ゲールくん」
「こちらこそ、お久しぶりです。しかし、この真夜中に呼び出すとは珍しいですね。急ぎの用ですか?」
ソファがあるが、そこには座らない。できるだけ、ボスのいるデスクの近くまで歩く。
「いや、急ぎではないのだが、大声でできない話がしたい。何せ、これは極秘でね」
なるほど、そういう訳か。他の人の出入りが少ない、夜の方が話しやすいのだろう。
ボスに手招きされる。よっぽどの話か。
「『壺の国』って、知ってるかな」
おや、これは雲行きが怪しい。ちょっと、それは、僕達にはレベルが高い話では。確かに、これは大声で言える案件ではなさそうだ。
「ええ、噂には聞いております。普通の壺に手を突っ込んだら連れて行かれる国で、行った者は誰も帰ってきていないと。三百人ぐらいが被害に遭っている、というあれですか」
「そうそう、それだ。知っているなら話が早い。悪いけど、というか、腕試しも兼ねて、ちょっとそこに行ってきてもらえないかな。被害がこれだけあるのに、手をこまねいて見ていることもできない。連れて行かれた人々の帰還と、支配者の首を取ってくるのを頼みたい。一週間後ぐらいを目処に行ってもらいたい」
「あの、すいません」
僕はボスに待ったをかけた。いきなり行けと言われても、正直心配な面が多い。
「どうした?」
「それ、五人で大丈夫ですか」
「私は大丈夫だと信じている。他の部隊じゃ、ちょっと力不足な感じがしていてね」
そんなに期待されても困るのだが。
このファミリーには、一部隊二十人程の部隊が十ある。僕がボスの『ブラッディ・ローズ』は特殊部隊で、それら一般の部隊とはまた別だ。
メンバーは僕、姉さん、リッキー、ローリー、サム。そう、タイムトラベルで僕と姉さんがこの時代にやってきた時に、一緒にあの場にいた人達だ。
中世の時代と、今の時代、持っている魔力は、中世の方が圧倒的に上だという。だから僕達は特別扱いされているのだ。
それでも、僕達はまだ中学二年の年だ。まだその魔法や戦闘能力は、完成したものではないと思う。
「なるほど……しかし、全員のコンディションが、一週間以内に整うかが心配です。僕自身も、昨日の案件でケガをしていますし、それに」
言葉を続けようとしたところで、上着のポケットに振動を感じた。携帯電話が鳴っている。「すいません、出ていいですか」
「ああ、どうぞ」
掛けてきたのは、姉さんだった。
「もしもし、どうした」
『例の不良とうっかり出くわしてね、ケンカになっちゃったもんでね。手当のために、ここから一番近い僕達の家に入れたいんだけど、いいかな』
「しょうがないねー。いいよ。あ、でも、僕、今いないよ」
『それはこれが国際電話になってるから分かるって。じゃあな』
「はいはい」
向こうから電話は切れた。仕事以外でも暴れるのがお好きなようで。
「どうかしたか?」
「また仕事以外でケンカしたってだけです」
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