僕達は魔力を解放したとき、きちんとした服装でなければ、自動的にスーツ姿になる。そして、各々の武器を確認する。魔法と武器を組み合わせて戦う人は多い。
僕はナイフ、リッキーは剣、ローリーは銃。サムは基本的に武器を使わない。
用意ができたことを確認すると、僕は場所移動の魔法を使う。ここは他人の目がある、危険だ。
『公園へ』
街外れの、ほとんど人気のない公園。僕達はいつも、ここに移動して一方的なケンカをする。「おい、どこだここ」
相手が混乱している間に、次の手を打つ。
「サム、いつもの」
「あいよ」
弟がいない時は、僕がリーダーとなる。サムが呪文を唱えると、相手の一団が、急に慌てふためきだした。
「何だこれは!」
「聞いてねえよ!」
外野の僕達はクスクス笑い。相手の不幸は蜜の味、じゃないけど、悪さをしている連中がやられる側になるのを見るのは愉快だ。まあ、僕達が悪いことをしている、という意識は希薄だけど。
「じゃ、行ってきまーす」
「おー」
と言っても、サムはそこから一歩も動かない。動く必要がないのだ。
外野からは何も変化がないように見えるが、実はあの一段は、黒いもやもやの中に閉じ込められている、ように彼らは思ってしまう。もやもやの中はどうなっているか。こんな感じだろう。
「あはは、かかったね」
サムの声が黒い空間に響き、ゆらゆらとその姿も現れる。
「誰だ!!」
「俺だよ、俺」
口元は笑顔を作る。目元は笑わない。心の中は大笑い。
「これはどういうことだ」
「ああ、この空間ね。本当は、俺達は公園に移動しただけで、他には何も変わっていないんだよね。でも、君達は黒い空間に閉じ込められたと思っている。これはね、俺の創った仮想空間。外から中は見えるけど、中から外は見えない。つまり、黒は幻覚。俺はこんな感じの能力持ちってわけ」
サムは幻術に長けていた。そして、その言葉を聞いて、僕達は武器を構えて、混乱が収まらない群れに侵入する。
「おい、こいつらも幻なのか?」
「さあね」

襲いかかってからは、あっという間だった。魔法も武器も持っていない相手、問題にならない。反撃も大したものではなかった。
仕事なら殺してしまうことも多いが、相手はその対象ではない。ぎりぎりの手加減で生かしておく。
――魔力、封印。
サムの幻術は解除され、三人の武器もどこへやら。屈強そうな一団は、血を流し、意識を失っている者も多そうだ。
その中で、話しかける者がいた。
「お前ら、一体何者だ……」
どう答えようか。相手によって微妙にそれは変わる。答え方は、リッキー―真樹が一番上手いので任せている。
「そうだね、魔法協会って知ってるかな」
魔法協会、とは、ミルトリー・ファミリーの表向きの名前。マフィアではなく、魔法関係の万屋を装っている。実際、暗殺や懲らしめ以外にも、魔法に理解や関心のある一般人からの(昔ほどではないが、今でも一定数いるのだ)、魔法が関係していそうな怪奇現象や、困りごとの相談や処理にあたることもある。ただ、それは僕達『ブラッディ・ローズ』の仕事ではない。
「いや、聞いたことがねえ」
「じゃあ、ミルトリー・ファミリーって知ってる?」
でも、裏の世界じゃ、ミルトリーの方を名乗った方が通りはいい。それは案外、日本でも。相手は目を見開いた。
「それって、イタリアの一流マフィア……」
「そういうこと。格が違うんだよ、君達とは」

「それで、どうしようか。これじゃ映画は無理じゃね」
ローリー―渉が言うように、全員、少しずつケガをしていた。それほどのものではないが、手当てはきちんとしないと後に響くことが無きにしも非ずなので、そこはきちんとする。マリノや、先代達から教わったことだ。
「そうだね。てか、何で阜がケガしてんの、今日は突っ込んでないでしょ」
頬に微かな傷があった。刃物でも掠ったような。僕は正直に挙手した。猿も木から落ちる。僕のナイフも逸れる。でも他に被害が出ないように、魔法で細工はしてある。
「それ、多分僕のせい。すまん」
「避けきれなかったこっちも悪いから、いいよ。大事にはなってないし。手当ては優子のところでいいんじゃないの」
元の場所――映画館から一番近くに住んでいるのは僕と元気だった。念のため、弟に電話で確認しようとしたら、国際電話になっていた。イタリアか。
「……いいってよ。行くか」
僕達は中学生であって、殺し屋である。殺しだけではなくて、普通のケンカも買う。だから、これが日常なのだ。


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