11
階段の一つを駆け上がる彼女を追いかける。一階上がったところで、彼女はさらにその上の階に行こうとしたが、一つ、思い浮かんだことがあって、彼女を呼び止めた。真正面から行くよりも、彼女に協力してもらって、あることをした方が面白いと思ったのだ。
「マリン!」
「はい?」
「ここで、大丈夫かな。当分は追いかけてこないと思うけど」
「いいのですか」
「何かあったら、僕が何とかする」
ナイフは魔法を使えば、無限に取り出せるのだ。その辺の心配はいらない。
「作戦がある」
周りの安全を確認して、僕とあまり背丈の変わらない彼女の耳に、思いついたそれを囁いた。
「いいかな」
「分かりました!」
階段をまた上っていって、息を整えて、彼女は城主がいるという部屋の前まで案内してくれた。白い立派な扉、ドアノブは金色。
僕は扉の影になる位置に立った。ふと、また思いついて、一本のナイフをポケットから出した。
「念のためだ、持っておいて」
「はい」
ナイフの刃の部分には覆いがされている。引き抜く動作をすると、彼女はうなずいて、覆いに戻したそれを受け取った。
「じゃあ、よろしく」
「はい」
ささやき声で彼女を送り出す。彼女がケガを負わないよう、万全の体制でいく。
――コンコン。
二回、彼女がノックすると、どうぞ、と男の声がする。この声が「ミラ」と名乗る男のそれか。
「お邪魔します」
彼女だけ入って、重そうな扉が閉じられると、中でやりとりする声は聞き取れなくなる。
『「リトル・ダンディー」と名乗る男が見えている、と言ってくれ』
そう、僕の通り名。これを聞かせて、相手を怯えさせる、あるいは混乱させるのが目的だ。
城主の部屋なら、重い扉だろう。それなら、ドアをバンッと開けて、奇襲攻撃を仕掛けるのは難しいだろう。そういう考えもあった。
キイィと扉が軋む。マリンがドアを目一杯開けて、僕と目を合わせた。
「出番ですよ」
「うん。――君もマフィアの一員だから分かると思うけど、危ないと思ったら逃げてね」
「はい」
彼女の顔に、怯えや恐怖はない。平和ボケしている感じに見えたが、緊急事態にも割と冷静な子のようだ。
僕のいた場所に彼女が陣取ったのを確認して、開かれた扉の前に、「ミラ」から僕が見える位置に立った。
「おやおや、とうとう来てしまいましたか」
紫の髪を二つに分けた、顔の細長い、長身の男。パワーはありそうだ。武器を構える。ほう、僕と同じか。これは面白い。
「呼ばれた気がしましてね」
「いつ呼びましたかね」
警備が手薄で、あっさり侵入を許した割には、態度が大きい。僕を倒せる自信があるようだ。
「さてはて。この世界の支配者の『ミラ』とやらは、あなたで間違いないそうで?」
「そうだ、私がミラだ。お前さんが、巷で噂のゲールくんかね」
「そういうことです」
「ふむ、用件を聞こう」
聞かなくても、その手に握っているものを僕に向けている時点で、分かっているようなものだろうが。
「まあ、人々に迷惑をかけているあなたを倒しに来たってところです」
「一人で?」
「どうでしょうか?」
僕も魔法を染みこませたナイフを見せた。魔法、といっても、先ほどの三人に対した時のものとは別のもの。少しばかり、暴れさせていただこうか。
「仲間がいるなら、来られても困りますねえ……」
不意に、その一本を投げてきた。僕は軌道を予測して避けた。
「今のは宣戦布告、ということで?」
「もちろん」
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