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「……と、いう訳なんだけど」
とりあえず、モップを適当な壁に立てかけてもらって、状況を簡単に説明した。さすがに、彼女も事の深刻さに気付いたらしい、しゅんとしている。あまり女の子をがっかりさせたくないのだけれど、ここは仕方ない。
「すいません、ここまでの大事に巻き込まれているとは思わなくて」
「分かったならいいのだけれど。で、ここに、怪しいボスらしき人はいたりしないかな」
「この城の主、ということでよろしいでしょうか?」
「そうそう」
「ミラ、という方です。ここの城にずっといる方のようです」
案内しましょうか、と言うので、それに付いていこうとすると、彼女の後方から、別の人間の気配を感じた。念のため、武器を確認。
現れたのは、中肉中背の三人の西洋風の男。見たことがない顔だ。全員、僕よりも背が高い。彼らは作業服を着ている、使用人だろうか。
「おや、マリン、こんなところで何をしているのかね」
「ずいぶん探しましたよ。まだ厨房の掃除が終わっていませんよ、夕食の支度が始まるまでに終わらせてください」
「洗濯も……ん? そなたは?」
そのうちの一人が、僕に気付いた。目がつり上がる。殺気を感じる。
――敵だな。
でも、門番と同じように、無駄に体力を使って倒すべき相手でもなさそうだ。
「見ない顔ですね。どちら様ですか」
三人目の男が続ける。僕はあえて質問で返す。
「そういうあなた達は、元からここにいる人でしょうか」
似たような体格の中でも、一番背の高い男が威圧感を放つ。
「ええ、そうですが。それより、あなたはどちら様でしょうか。本日は来客がないと聞いておりますが」
のっぽさんがポケットに手を入れた。何か出す気かな、怒らせちゃったかな。さっさと処理してしまおう。
触れられるなら、眠らせることもできるが、あくまでも指一本でも触れられれば、の話。ちょっとここは無理そうだ、それ以前にやられてしまいそうな雰囲気だ。
マリンは、三人が僕に気を取られているうちに、柱の陰に隠れていた。その辺の察しの良さは、マフィアの一員から来るものなのだろう。
「悪いけど、名乗るほどでもなくてね。まあ、ミルトリーんとこの誰かさん、とだけ言っておこうか」
ミルトリー、と言ったところで、相手から感じる負のオーラが強くなった。間違いない、こいつらはどこのファミリーかは知らないが、向こう側だ。
右手にナイフを三本、一本ずつ指に挟んで。
「おおっと、やっぱり敵(やっこ)さんだな? そっちがその気なら、こっちも受けて立つぞ!」
真ん中の背の男が、短刀を腰から抜いた。他の二人も、手に何かを持ったらしい。
もうすっかり、マリンのことは頭から抜け落ちているらしい。激昂するほど、一点しか見えなくなるのでやられやすい―彼らはそのことを教わらなかったのだろうか。あるいは、魔法を使って、少ない労力で襲うとか。いやでも、魔法が使えない人かもしれないけど。
「かかってきな」
空いている左手で、誘うようなジェスチャーをすると、短刀を持った男が飛びかかってきた。
「こらあ!」
「あらよっと」
分かりやすく僕のハートを狙ってきたのを軽くかわして、僕は三本のナイフを一斉に放った。一本一本、一人一人狙いを定めていては、その間に攻撃される可能性もあるが、何より体力の無駄だ。魔法によって、大ケガはするが、致命傷を与えない場所―ハートの真横を刺しにいくようにしておいた。殺してしまうよりも、傷の痛みでもがく方が苦しいらしい。
「ぐわあっ!?」
「な、なにものだ……!?」
「マリン、こっちだ!」
三人が武器も落として、のけ反っている間に、マリンを呼び寄せる。ごろごろと暴れる(いや、暴れるとは違うか)じゃがいも達を飛び越えて、僕の元へ。
「おい、マリン、お前は……」
そう声を上げる男もいたが、僕らは揃ってその声を無視した。モップも置いたままで。
「安全なところへ」
「ご案内します」


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