俺―阜―サムは、渉―ローリーと共に、静かな住宅街にいた。人通りはない、住宅街に人が住んでいるかどうかも分からない。空には満月、他に明かりはない。
「夜だね。何時だろう……あ、時計忘れちゃった」
また忘れ物か。前に魔力を封印したときの姿が、次の魔力解放のときの姿になるが、どこかで外してしまって、それきりなのだろう。
俺は自分の茶色の革ベルトの、アナログの腕時計を見た(俺達五人は全員アナログ派だ)。一時五分。出発した時刻のまま。秒針は止まっていた。調整のための部品を触ってみるが、動かない。
「動かないなあ。ここじゃ、この時計は使えないみたいだ」
「えー、まじか」
「しばらくこの辺を歩いてみて、様子をみよう。ここに住民がいるかどうか分からないけれど、もしいるとしたら、話を聞いて何らかの手がかりを得てから動いた方がいいと思う」
「おっけー」



俺(確認)―真樹―リッキーは、砂浜にいた。月明かりの下、打ち寄せる波の音だけが聞こえる。
何か手がかりはないか、砂浜を歩いていると、足下に一枚の紙が落ちているのに気がついた。幸いにも、月明かりの明るさは、その紙に書かれていることを読み取るには十分だった。
イタリア語のようだ。図と文字が書かれている。
「まさか、これって……」
この『壺の国』とやらの、地図かもしれない。はっきりと『壺の国』とは書いていないが、勘がそう言った。



僕―元気―ゲールは、草原に立っていた。後ろには見渡す限りのそれで、目の前には怪しげな城。
ここに、鍵となる人物がいるのだろうか。そんな感じがする。
周りには、仲間は誰もいない。ここは一つ、一人で入ってみようか。



僕―ユーミンの放ったナイフは、ぐさり、と何かに刺さるような音を立てた。その何かの全体像を掴もうとするが、暗くてよく見えない。
「おいおい、どんな感じなんだ……おっと!」
相手が急に動いた感じがした。すぐに別のナイフを何本か放つ。しかし、先ほどのような当たった感触はしない。避けられたか。
相手も、何らかの武器を放っているらしい。それが僕の身体のあちこちに当たる。よく見えないので、避けきれない。一時的に痛みを麻痺させる魔法を使っても、出血する感覚はなくならない。これはまずい。
とりあえず、相手についてここまで分かっていることは三つ。
一つは、ナイフが刺さってもよく動いているということ。二つ目は、ナイフを避けている感じがするので、僕の放ったナイフが見えているということ。三つ目は、攻撃力がそれなりにありそうだということ。
僕には相手がよく見えない一方で、相手は僕や僕の武器が見えているらしい。これは僕が圧倒的に不利だ。
あまり好きではないので、本当は使いたくないのだが、あの魔法を使うしか勝ち目はなさそうだ。
――『キャッツ・アイ』、開放。
視界が明るくなる。相手の姿を、ようやく捉えた。
巨大な鳥。鳥といっても、羽毛ではなく、硬そうな鱗のようなもので覆われている。その身体にナイフが刺さっているのが見えたが、そこをかばったりはしておらず、その影響を感じさせない。
しかし困った、ナイフが効かないとなると、どうすればよいのか。これは明らかに試練だ。何か他の手を打てないか考えてみる。その時、その鳥は大きく羽ばたいた。僕の方に向かってくる。
――やばいな。
――……そうだ!
僕は瞬間、思い出した。ある新しい魔法の研究に、自分も参加していることを。実戦で使ったことはまだないが、一か八か、やってみる価値はあるだろう。
右腕を高く掲げる。破れた服と、服の無数の赤いシミは、とりあえず無視して。
「『ファイア・トルネード』!」
炎が、相手を包む。


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