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◆
四月八日 正午過ぎ
「ごちそうさまー」
始業式が終わった後、部活をやっている人―元気と渉は休む旨を顧問に伝えて、全員僕達の家にやってきた。
お昼ご飯は、僕、優子と元気はカップ麺といなり寿司を、あとの三人はのり弁。
「はい、ゴミはここに入れてね」
一番最初に食べ終えた元気が、ゴミ袋を持ってくる。僕はきつねうどんをスープまで飲み干して、食べ殻をそこに放り込む。箸は家にあるものなので、流しに持って行く。
それから、他の三人が食べ終わるのを待っている間に、無人になるので戸締まりを確認し、マリノから借りた、乳白色で高さ四十センチほどの壺を、玄関に鎮座させる。この壺から『壺の国』に行けるかどうかは不明だが、魔法を扱う組織の施設にずっと置いてあるものだ、マリノ曰く「可能性はある」という。
「玄関に壺置いてるから、割るなよ」
「はあい」
歯磨きも済ませて、リビングに戻ると、ちょうど皆食べ終わったところだった。食べてすぐに動くのは身体に良くないので、二十分ぐらい適当に話していた。
渉が宿題を一つ、持って行くのを忘れて怒られていたことだったり。彼にとっては日常茶飯事なことだが、しかしその宿題、やってはいるのだろうか? 家でやらずに、学校に来てから慌ててやっていることも珍しくない。
「そろそろ行く?」
元気が腕時計を見た。僕も自分のそれを確認。午後一時。
「行こうか」
部屋の電気を消して、ぞろぞろと部屋を出る。最後に僕が、部屋の窓の戸締まりをチェックして出た。
「これで行けるの、その『壺の国』とやらに」
皆で壺を囲む。真樹は指をあごに当てた。
「行ける、かもしれないってだけ、だけどね。できなかったらマリノに相談して、仕切り直すよ」
元気がその壺に触れた。それなりにいいものであるとは聞いている。
「まあ、現地から戻ってきた人がいないから、情報はほとんどないに等しいんだけど、何とかなるだろうね、ということで」
彼が壺の上に右手を伸ばした。僕がその上に同じく右手を重ねると、渉、阜、そして真樹が同じく手を重ねて。
――魔力、解放。
全員がそれらしい姿になったのを確認して、手を一番上に置いた真樹―リッキーが、その手で、皆の手を思い切り壺の中へと押し込んだ。
◆
瞬間的に意識が飛んでいったかと思うと、まもなく浮上する感覚を覚える。
僕―優子―ユーミンは辺りを見渡した。暗闇。しかし、単なる暗闇ではなく、手で地面を触れると、落ち葉の感触があった。頭上には、わずかに空らしきものが見える。昼? いや、夜か。
身体に痛みはない。ゆっくりと起き上がって、試しに地面を蹴ってみると、土と落ち葉の感覚。よく見ると、空を隠しているのは生い茂った木々だと分かった。ここは森の中のようだ。だが、周りには誰もいない。人の気配がしない、僕だけしかいないのか。
「開始早々、はぐれちゃったか……ん?」
左前方から、カサカサと音がする。風で葉が揺れたのか、それとも。念のため、懐に手を入れて、ナイフの柄を持つ。
再び、物音。風は吹いていない。敵か。ナイフをむき出しにして構える。
その瞬間、突如謎の物体が姿を現した。僕はナイフをぶん投げた。
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