20

「……」
部屋が重苦しい空気に包まれる。
それを破ったのは、来客を知らせるチャイムだった。
「……出てくる」
家の主である優子が部屋を出た。
そして相手と一言、二言交わして、彼を引き連れて部屋に戻ってきた。
「僕達の仲間だ」
優子の後から、長身の少年が入ってきた。
「よっ。って、何か増えてねーか?」
「あ、真樹じゃねーか」
少年は真樹だった。
「いや、今日当日だし、『晩餐』、するんだろ?」
「するよ、もちろん」
彼はソファの空いているところに座る。
「……で、さっきも言ったけど、何か増えてないか?」
「ああ、ちょっとね。紹介するよ。僕の隣に座ってるのが白石俊。梨花の弟だ」
元気が言う。
「よろしくお願いします」
俊は立ち上がって軽く礼をした。
「よろしく。怪我は治ったのか?」
「はい。姉の魔法で治してもらいました」
「あれ、梨花って魔法使えたんだ」
「元気さんに調べてもらったんです。弟も使えますよ」
「ちょっとややこしいことになってるけど、ね」
梨花の言葉に、元気が付け加える。
「ややこしいこと?」
「……まあ、その話はまたの機会に。で、僕達の向かいに座っているのが清水洋一と清水明。雨の中で震えているのを拾った」
「おま、『拾った』って……」
明が突っ込む。
「別にいいじゃねーか。それで、こいつらも魔法が使えるんだ」
優子が宥める。
「へ−え、そうなんだ。どんな魔法?」
「あー……」
事情を知る六人は、顔を見合わせる。
「え、何? 俺、何かまずいこと聞いた?」
何も知らない真樹は、少し慌てる。
「いや、そうでもないけど……」
「ちょっと説明が難しい……よな」
元気と優子は顔を見合わせた。

コンコン。

気まずそうな雰囲気になりそうなところで、ドアをノックする音が聞こえた。

「じゃあ、今度は僕が」
元気が部屋を出て、相手を出迎える。
そして彼らを連れてきた。
「全員集合、だな」
元気の後ろから、二人の人影が現れる。
「おーすっ!……って何か多くないか?」
「本当だ」
「お、渉と阜か。ちょっと色々あったんだ。適当に座って」
二人は床に座った。
そしてそれぞれ自己紹介をした。
「よろしく!」
「こちらこそ。……あれ、そういえば、眼鏡をかけた君、名前を聞いてないんだけど」
俊が言う。
「そういや言ってなかったな。俺は遠藤真樹。本名はリッキー・ミルトリーだ。よろしく」
「よろしく」
「それで、さっき『説明が難しい』って言ってたけど、あれは……」
「それ、何の話?」
「俺も気になるんだけど」
後から来た二人が聞く。
「そっか、君達はさっき来たんだ。あのね、洋一と明の魔法の話をしようとしてたの」
梨花が説明する。
「え、普通の魔法じゃないのか?」
「そうだ。それを説明しようとしたら丁度君達が来たんだ」
元気が言い、一呼吸置いてから再び話し始めた。

「洋一の本名は『ロタール・クランド』、明の本名は『ベルフ・クラン』。これが何を意味してるか、分かる?」

「うーん、名字が違うのが気になるけど、意味までは分からないな」
真樹が言う。

「そう、そこがヒントだ。誰か分かるか?」

「……あ、思い出した」
そう呟いたのは、阜だった。

「言ってみ?」

部屋に緊張が走る。

「『クランド』がハーフで、『クラン』がクォーター……要するに君達、『ミックス』、てことか?」

「サム、その通り」

「ミックス……そういえば聞いたことがある気がする」
ローリーが言う。

「ミックス? どういうこと?」
梨花が聞く。

「『ミルトリー家とルビー家の混血児』、だ。つまりハーフの洋一、もといロタールは両方の血が流れていて、クォーターの俺はミルトリー家の血とルビー家の血が3対1の割合で流れている。もちろん逆の場合もありうる。二つの家系は対立関係にあるから、ミックスは双方から忌み嫌われる。だからハーフは『クランド』、それ以外の混血の場合は『クラン』と、独自の名字を名乗るようになった……って感じ」

そう答えたのは明――ベルフだ。

「……完璧だよ」
元気が感嘆の表情を浮かべる。
「そら、自分が当事者だから、それぐらいは知ってるさ。あ、あと、魔力がすごく高い、てのも聞いたことがある。でもその代わり……えっと、何だっけ。肝心なところを忘れた」
「それ、多分あれだ」
優子が口を挟む。
「え、知ってるのか?」
「まあな。でも忘れたのなら忘れたままの方がいいかも。結構深刻な内容だしな」
「うん、何かヤバい内容だ、ていうのは覚えてるんだけどなあ。洋一、知ってるか?」
「……お前が知らないことを、記憶がない俺が知ってるわけないし」
「記憶がない?」
真樹が聞いた。
「あー、俺、何でか知らないけど中学校入る前の記憶が全くないんだ。つまり記憶喪失」
「「ええっ!?」」
後から来た三人は驚く。
当然だ、目の前の人物が重い言葉をさらっと言うのだから。
「……ま、そのうち戻るさ。気にすんな」
洋一は笑顔で言う。
だが、それはやや無理をしているように見えた。
一方、
「あーもう、やっぱり思い出せねえ! 俺も記憶喪失か?」
明はまだ思い出そうとしていた。
「……俺とお前を一緒にするな。お前のはただの物忘れだ」
「そっか、それはごめん。ていうかお前、お風呂の時の元気はどこ行ったんだ? 口数が少ない気がするんだけど」
「……お風呂の話はやめろ。それと、質問の答えはお前も分かってるだろ。俺は今のこの空間が怖いんだ」
「怖い? ……あ、ごめん、分かった分かった」
「あのー、俺達にも分かるように説明してくれないか?」
二人の会話に、俊が割り込むように聞く。

「……あのな、俺さ、実は人見知りでさ。だからさ、今、初対面の人が大勢いるこの空間が怖いんだ」

「そ、そういうことなんだ……何か洋一さんって、記憶喪失といい、人見知りといい、結構デリケートな感じですよね」
「デリケート、ねえ……初対面の人にはよく言われるよ。あと、『さん』付けしなくていいから」
「でも、慣れたら慣れたでうるさいからな、この人」
明が洋一の肩に手を置いて言う。
「俺、そんなにうるさいか?」
「うるさいに決まってるだろが。さっきのお風呂の時も……」
「だからその話はやめろ!」
「やめろって言われたら余計に聞きたくなるんだけどなー」
真樹が黒い笑顔で言う。
「僕が教えてあげようか?」
優子が真樹に耳打ちする。
しかも渉と阜も話を聞こうとしている。
「そこ、こそこそするなー!」
洋一の声は彼らには届かない。
「やっぱり、ちょっとうるさいよね」
「うん。しかも声大きいし」
梨花と俊が、先刻と同じように引き気味に言う。
「黙れそこの姉弟!」

「はい、悪いけどまたそこまで。あと一つだけ大事な話が残ってるから」

元気が立ち上がって言う。
その手にナイフは握られていないが、その一言で部屋に静寂が戻る。

「大事な話?」
「うん。梨花と俊には話したけど、」

「洋一と明、いや、ロタールとベルフ、僕達のファミリーに入らないか?」

「!?」

元気と優子は、理由を説明した。

「……と、いうことだ」

「……」

ロタールとベルフは、顔を見合わせた。

「答えは急がない。じっくり考えて決めてくれ」


その時、五時を知らせる時計の鐘が鳴った。

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