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「……」
彼らは、彼女の話を真剣に聞いていた。
彼女が話し終えた後、一番最初に口を開いたのはゲールだった。
「……辛い過去が、あったんだね」
「はい、でもここで全部言えて、すっきりしました」
「なら良かった。問題は、犯人が父なのかどうか、だな」
ユーミンが言う。
「そこなんだよなあ。直接会うわけにもいかないし……」
リッキーが困り顔で言う。
「うーん……」

部屋に、しばしの沈黙が流れる。

「……そうだ! あ、でも……」
突然、梨花が声を上げる。
でも再び黙ってしまった。
「何か気づいたのか?」
サムが聞く。
「うん。でも、手がかりになるかどうか分からなくて……」
「それ、言ってみなよ。もしかしたら何か分かるかもしれないし」
ローリーが言う。
「……分かりました」

「この前、家にお客さんが来たんです。父のお客さんでした。私は隣の部屋で会話を聞いていました。
そしたら、そのお客さんは父のことを『ゴースト』と呼んでいたんです」

「ゴースト!?」
そう大声を出したのは、ずっと黙っていたマリノだった。
「ボス!? 何か知っているのですか?」
ゲールが驚きの表情で問う。
「ああ、知っているさ」
「どんな人だ?」
今度はユーミンが聞く。
「そうだな、一言で言うと……」

「私達の一番の敵対ファミリー、ルビーファミリーの日本への刺客だ」

「ルビーファミリーの、」
「日本への、刺客……!?」

その事実を聞いた彼らは、動揺を隠せない。

「そうだ。……いつかは忘れたが、日本に『ゴースト』という名のルビーファミリーの刺客がいると聞いたことがある。
それが本当かどうか情報班に調べさせたんだけど、あまりにも情報が少なすぎて尻尾すらつかめなくてね。……梨花さん」

「はい?」

「一つ、聞いてもいいですか?」

「いいですよ?」

「あなたの父の名前は何ですか?」

「白石 哲郎(てつろう)、です」

「テツローか、なら間違いないな」

「何がですか?」

「……梨花さん、あなたの父は『ゴースト』です。日本では『テツロー』と名乗り、医者である、と聞いたことがありますからね。
そしてあなたの家族の命を奪ったのも、彼と考えていいでしょう」

「!!」
その場にいた全員が驚き、同時に殺すべき犯人が分かったことに、少しだけ安堵した。

すると突然、ゲールが立ち上がった。
そして、梨花の方へと向かう。

「君の依頼、僕達が責任を持って引き受けます!!」
そう言って、彼は手を梨花の方に差し出す。

「……では、よろしくお願いしますね」
彼女も立って手をゲールの方に差し出し、二人は固く握手を交わした。


                                   ◆


しばらくして握手を解き、二人は元の席についた。

「さてと……ここで、決めておきたいことと、聞いておきたいことがあるけど、時間は大丈夫?」
ゲールが聞く。
「はい。大丈夫ですよ」
「ならいい。じゃあ、まず決めておきたいこと。それは……報酬。
『何万円でも払える』と言ってたけれど、実際のところ、父の口座にはどれぐらい入ってる?」
「……はっきり言って、私にも分かりません。相当な金額が入っているのには間違いありませんが」
「成程ね。だったらその話はまた後だ。次に、聞いておきたいこと。それは……」

「君と弟、これからどう生活していくの?」

「……え?」

思いもよらない質問をされて、彼女はすぐに答えられない。

「だから、この先どう生きていくかだ。お金はしばらくは大丈夫だろう。でも、収入源がないのならいつかは底を突く。
もう一つは住む場所だ。もし、僕達が君の父親を殺した後、遺体が見つかったら真っ先に疑われるのは家族である君達だ。
すると君達は警察送り、家にも警察の手が入る。しかも暗殺は大抵夜だから、アリバイも証明しにくい。
口座も止められるだろうね。……あくまでもしもの話だけど、100%このような状態にならないとはいえない」

「……」

彼女はただ、黙って彼の話を聞いている。
「ブラッディ・ローズ」の残り4人も真剣だ。

「……でもその状態を防ぐ方法がないわけでもない。……僕達のところに来れば、アリバイも証明できるし、生活にも困らない」

「……ええっ!?」
「おいおい、何言って……」
ブラッディ・ローズのメンバーが彼の言葉を止めようとするが、その声は彼に届かない。

「つまり、これからの君達の人生が保障されるんだ。どうする? 梨花さん」

「……本当に、いいんですか?」

梨花は希望に満ちた表情をしている。

「もちろん。ちゃんと守ってあげるから、さ?」
「……ありがとうございます! 早速、準備してきます!」

そう言うと、彼女は部屋を出て行った。


「本当にありがとう! そしてこれからよろしく!」


「……ゲール、本気か?」
リッキーが聞く。
他のみんなも困った顔をしている。
「いいんだよ。困っている人は放っておけないからね。ちなみに彼女とその弟は僕達の家で暮らす。いいよね? 姉ちゃん」
「……ああ、構わない。今回は君に完敗だ」
他の三人、そしてマリノも頷く。
「にしても、お前がここまでやるとはね。もしかして、彼女と何かあったのか?」
マリノが聞く。

「……なーんにもありませんよ、なーんにも」

ゲールは笑いながら言うと、部屋のドアを開けた。

「ちょっと外の空気を吸ってきます。すぐに戻りますから」


ーー……絶対に何かあったな。
部屋に残された者達は、そう思うのであった。

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