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「……というわけで、今君が置かれている状況を理解出来たか? マリン」
「はい。まさかこんなことになっているとは思ってもいませんでした」
ゲールは状況が分かっていないマリンのために、それを説明した。
マリンはそれを理解したのか、少し落ち込んでいるようだ。
「で、ここのボスはどこにいる? 出来れば名前も教えてほしい」
ゲールは問う。
「……ボスの名前はミラ。今は個室でお休みに……」
なっています、と彼女が言おうとした時、ゲールの背後から声がかかった。
「おや、マリン。こんなところで何をしているのかね?」
「随分探しましたよ。まだ厨房の掃除が終わってないので早く行ってください」
「それに洗濯も……って、あれ?」
そこにいたのは、3人の男。
どうやらこの城の使用人らしい。
マリンを探していたようだが、ゲールの存在に気がつき、足を止めた。
ゲールも彼らの方を向く。
「あなたは見たことがありませんね。どちら様ですか?」
「そういう君達は、元からここに居る人か?」
「ええ、そうです。それよりあなたはどちら様ですか? 今日は来客がないと聞いていますが」
「……名乗る必要はない」
ゲールはナイフを3本構えた。
「!!」
それと同時に、使用人達は数歩下がる。
「ナイフを構えるとは何事だ! まさか、私達を倒しに……」
「その通りだよ」
彼はナイフを放った。
3本のナイフは、一本ずつ確実に、使用人たちの胸に刺さった。
「わあ、すごい!」
マリンは、笑顔で言った。
しかしその発言に、ゲールは複雑な表情になる。
「……血を見るの、怖くないのか?」
「全然!最初はちょっと怖かったけど、もう慣れちゃった!」
「……そっか」
ーー全然怖くない、か。
ーーでも僕も、最初は気を失うぐらい怖かった。
ーー今はもう慣れたけど、全然怖くないといえば、
ーー……嘘になる。
「……どうしたの?」
マリンはゲールを見上げた。
「あ、ごめん。ちょっと考え事してた」
「そうなんだ! で、ボスのところには行かないの?」
「行くよ。でもちょっと待って」
彼は少し考えた後、マリンの耳に手を当てて、こそこそと何か囁いた。
「……いいか?」
「はい!!」
彼女は大きく、返事をした。
◆
2人は、ボスの部屋の前に着いた。
ゲールは再び、マリンに囁いた。
「……行っておいで」
「はい」
彼女は、小さく返事をした。
マリンは、部屋のドアをノックした。
コンコン、と乾いた音がした。
「どうぞ」
中から声が聞こえた。
「お邪魔します」
ドアを開け、マリンだけ入る。
そして、2、3歩、前に出た。
「マリンが来るとは珍しいな。何の用だ?」
ミラから声を掛けてきた。
「来客があったので、ご報告に上がりました」
「来客? 今日はなかったはずなんだが……。誰だ?」
「それが、『リトル・ダンディーと言えば分かる』と仰ってました」
「そうか。……ん? そいつ『リトル・ダンディー』と言ってたのか?」
「はい、間違いありません。お呼びしましょうか?」
「いや、いい。こっちから行くから、待っててくれな……」
その時だった。
バンッ。
勢い良くドアが開き、部屋に居た2人はその方向を見た。
「呼んだか?」
そこに居たのは、ナイフを構えたゲールだった。
「おや、とうとう来てしまいましたか」
ミラはそれを見て、自らの武器を構える。
「フォークか……。まあ、いいだろう。お前の名前はミラ。この国に人を迷いこませている張本人だな」
「そうだ。そういうお前はゲール・ミルトリー。又の名をリトル・ダンディー。ここに居るということは、私を倒しに来たのだな」
「そうです。なら……」
「始めましょうか」
2人は笑った。
しかし、目は笑っていなかった。
それは、
「殺し屋の、目……」
マリンが、呟いた。
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