あの日の思い出 | ナノ







 この関係は、今すぐにやめるべきなのだ。そう思いながらも。その縁を断ち切る事ができなかった事を後悔するような時間すら、俺たちにはないのだ。




 新宿にある折原臨也、フィナンシャルプランナーとしての事務所。そこに煙草をふかし、けだるそうな態度でソファに腰掛ける静雄の姿があった。パソコンを弄る臨也を横目に静雄は肺にまで煙を吸い込み、そして吐き出す。それを何度か繰り返し、短くなった煙草を灰皿に擦りつけた。

「最近、煙草の数増えたでしょ」

 キーボードを叩く音はひっきりなしに耳へと届く。視線すら上げずに臨也は言い放った。
静雄が纏う煙草の匂いがここ最近、一層強くなった。微かに匂っていた煙草の匂いが、今では、はっきとわかってしまうほどだ。

「なにかイライラする事でもあった?」
「白々しいって言うんだっけか。手間のその態度」
「へえ、俺のせいだって?」

 クスクスと笑う臨也に、ケッ、と静雄は口を尖らせた。

「手前、最近いろいろ動き回ってるみてぇじゃねえか」
「おお、怖いねえ」

 軽口を叩く臨也に静雄はきつく睨み付けた。
 臨也と静雄。二人は高校時代からの付き合いであったが、行きついた道は違っていた。池袋をシマとする組は二つある。それが、静雄が所属する組と、臨也の所属する組だ。この二つの組は仲が良いとは言い難い関係にあった。もちろん臨也と静雄の関係は認められたものではない。時間を見つけて、短い間に顔を合わせているだけなのだ。
 二つの組は仲が良い訳ではない。言うならば、冷戦状態といった状態にある。どちらかが一歩でもすぎた事をすれば、その関係は崩れるだろう。
 粟楠会の折原臨也、といえば情報屋として有名であった。その臨也が最近周りを嗅ぎまわっている、という情報を静雄は耳にしていた。

「あまり過激な動きすっと、睨まれンぞ。わかってんだろうなァ」
「わかってる、わかってる。でも仕方ないじゃない。ご命令だからさ」

 肩を竦める臨也はどこかふざけたような態度で、静雄はそれが気に入らない。この世界に入ってもう何年も経つ。簡単な世界ではないとわかっているはずだというのに。

「いつもの人間愛かよ。いい加減にしねえと、足元掬われんぞ」
「なに? 心配してくれてるんだ? 優しいねえ」
「簡単に死ぬような奴じゃねえけどな、手前は。うざってえ程に」

 おほめにあずかり光栄です。
 臨也はその態度を変えるつもりはないようだ。チッと静雄は舌打ちを零す。
 最近、折原臨也が動いているみてえだな、と他の組員が噂していた事を気にしてここに居るというのに。そんな静雄の考えなど臨也はお構いなしだ。だが忠告はした。
人の忠告を真剣に聞き入れるような奴だとは思っていなかったが、仕方がない。これが折原臨也という人間である。

「俺を殺すのはシズちゃんだろう?」

 なんて誘い文句だろうか。どこか真面目な顔をしていうものだから、静雄は目を丸くする。そうして馬鹿かと言えば、柔らかく臨也は笑った。

「まあ、簡単には殺されませんけどねえ」

 俺が死んでいてもそれがちゃんと俺だって確認した方がいいよ?
 そんな冗談を言う臨也に、静雄は溜息しか出てこなかった。馬鹿らしい。心配をしていた訳ではないが、とても馬鹿らしい。

「さっさと死ね、ノミ蟲」
「ええ? 酷いなあ」

 静雄は帰ろうと立ち上がる。すると臨也も動かしていた手を止め、急ぎ足で静雄との距離をつめると、大きな背中にそっと手を添えた。

「好きだよ、シズちゃん」

 なんだ突然。
 臨也は言い終わるや否やその背中を押した。

「じゃあね」

 ひらひらと手を振る臨也はいつもと変わらずの折原臨也であった。好きだなんて滅多に口にする事がないというのに。
 相変わらずの気まぐれ加減だ。と静雄は頭を掻きながら、マンションを後にする。



 そこでどうして気が付けなかったのかと後悔することになるのだ。
 臨也は気が付いていた。自分はもうすでに目をつけられていて、もう後戻りができない場所にまで来ているのだと。
 その一週間後に、臨也は姿をけし、そして奴を殺せと報告を受けたのだった。



(20111216)

もう離さない」に続く感じで

匿名さまリクエスト「ヤクザな静臨パロ」でした!
前にヤクザ的なマフィア的なお話しを書いていたので、それのちょっと前のお話しを…。
やたら私の中でヤクザは落ち着いたイケメンなイメージありすぎで…二人ともスーツだといいなイケメン
遅くなってしまいましたが、リクエストありがとうございました!



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