ただ君の傍にいたい | ナノ





「シズちゃんは、やっぱり俺の事なんて好きじゃなかった。」


諭すように臨也はぽつりと呟き、赤い瞳からは涙が溢れ出していた。



を失ったならば、α




突然何を言ってるんだよ、静雄は慌てふためいた。特に何の前触れもなく、肩を並べテレビに向かいソファーに腰をおろしていた。ただ、それだけだったのだ。だが臨也は自身の裾で必死に零れ落ちる涙を何度も何度も拭い、みるみる鼻の先まで赤くなってしまう。


「どう、したんだよ。」


ずるずると下がっていく頭を覗き込む。シズちゃんなんて死んでしまえ、と震える唇が紡ぎ部屋にはテレビから洩れる司会者の愉快な声と臨也の嗚咽だけが響いた。
突然のことで静雄はどうすればいいのかと頭を抱え、手を伸ばすが触れる前に引っ込めてしまった。


「ほら…。…ふ、…シズちゃんは、…ぅ…俺の事なんて好きじゃなかった。」
「なんでそうなんだよ。」
「気付いた、んだ。」
「なに、に?」


微かに上下に揺れる肩がどこか寂しそうで、静雄は心臓を鷲掴みにされたような感覚に陥った。俺は何かしただろうか? 静雄もまた不安そうに続く臨也の言葉に耳を傾けた。


「シズちゃんは、俺を好きじゃ、ない。ただ、隣に居ても気にならない程度になった…だけ、だろ?」
「ンな訳ねえだろ。…ふざけてンのか?」
「ふざけてない。ふざけてなんてないッ!」
「じゃあなんでンな事言うんだよ! 何度も俺は手前が好きだって――…」



「じゃあなんで俺に触れないんだよッ!」



キィン、と臨也の声が耳に響く。無意識に静雄は息を飲んだ。瞼を必死に擦るその手は強く握り締められている。息をつく間を与えず臨也は勢いに身を任せ、溜め込んでいた激流を全てさらけ出していった。


「首無しとは仲良く世間話して小突き合ったり、上司の人に肩叩かれて、シズちゃん、照れたように笑ってたり、一緒に飲みに行ったりするって言ってたじゃん、」


――……じゃあ、俺はなに?

震える声、嗚咽を交えながら言うそれは、訴えのようで静雄が口を挟める隙など全くといって無かった。だが聞き捨てならないものだ。臨也が静雄のなんなのかは初めから決まっている。静雄が最低な行為をした、あの声を一時的に失っていたあの頃に。


「恋人、だろ。」
「違う。シズちゃんは気付いたんだ。恋愛という、誰かを愛する意味を知ったんだ。そしてその相手は折原臨也では無いと気付いた。言っただろ? 君に愛がわかる? って。1年もあれば、さすがに気付く事ができる。そうでしょ?」


付き合い始めこそ、ギクシャクしていた2人だった。臨也は世間体を気にして、静雄は不安がる臨也に好きだと何度も囁きかけた。2人で食事に出掛けたり、臨也がもしくは静雄が手料理を振る舞ったり。初めて2人で誕生日を祝い、クリスマス、お正月と過ごし、気づけば1年という長い時間が経過していた。
だが時間が経つにつれ、静雄と臨也が触れ合う事が減っていってしまっていた。それは言葉通りの肌と肌の触れ合いもそうだが、キスもまたする機会がめっきり減っていたのだ。

そして今日は、2週間ぶりに顔を合わせていた。久しぶりの団欒や世間話。だが、何もかもが普通だった。特に何もなく、滞りなく時間が過ぎていく。進まないが、退化もしない。昔、新羅にかけられた言葉が臨也の頭をよぎっていた。そして、感情が爆発してしまったのだ。

だが静雄が何も感じずに、臨也と過ごしていた訳でも無かった。触れなかった理由は、しっかりと存在していたのだ。


「触っても、いいか?」


優しいテノールの声。臨也は肩を少し揺らしたが、抵抗することは無かった。静雄の大きな手のひらが臨也の片頬を包む。濡れた頬を撫でると、赤い瞳がゆっくりと静雄の方へ向けられた。


「ずっと触りたかった。けど、触れ方が、わかんなかったんだよ。」


静雄はポツリポツリと語りだし、臨也の瞳から流れる涙は一層激しさを増した。


「俺はもっと、手前に触りたい。手前を抱き締めたい。手前を――…抱きたい。」


真っ直ぐ見つめられ、ヒュッ、と臨也は息を飲む。1年という長い時間の中で、静雄は臨也への好意は膨らみ続け、不意にみせる自然な笑顔に。シズちゃん、と呼ぶその声に。どうにかしてやりたい、という感情を抱き始めていた。
だからこそ、触れてしまえば何かが崩れてしまいそうで。


「手前はどう思ってるのかわかんねえし、やり方だってイマイチわかんねえ、し、」


あの平和島静雄が不安そうに顔を曇らせ、視線を揺らした。
薄く開いた臨也の唇。頬にそえられた男らしい手の甲に自身の手を重ねた。テレビから流れてくるニュースを読む声よりも遥かに通った声で言った。


「――…触って、」


触って欲しい、と静雄の手のひらに頬を擦り寄せた。
ゆっくりと静雄は顔を近づけ、気が付けば鼻が掠める程だ。合わさった視線は、もう外せない。ドクン、と胸が高鳴り臨也がぎゅっ、と目を閉じると、涙で濡れた唇は塞がれていた。





(20110119)

長くなってしまったので、区切ります!
続きはR18指定です。
嫉妬…臨也さんになってるのだろうか…! とても乙女です…。


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