プロローグ


「一、二、三……」

 精霊の森、大樹の前に響く声。
 少女が一人、剣を振っていた。まだあどけなさを残す顔――だいたい十五歳だろうか――の額に汗を浮かべながら。

「ふう……」

 しばらく剣を振ることに集中していた少女は、ふと手を止めた。額の汗をぬぐい、見上げたのは大樹。 一人で剣を振り、剣術道場である我が家に帰って父に稽古をつけてもらう。
 少女にとって、この日も変わらない日常の一日になるはずだった。

「これは?」

 それを見つけるまでは。
 大樹の根元へ視線を落とした少女は声を上げた。大樹の根元に何かが落ちてる。

「…………本?」

 拾い上げたのは、一冊の本だった。
 古めかしい本のページを、少女はぱらぱらとめくる。

「…………?」

 その内容に、少女は首をかしげた。

「白紙?」

 否、最初のページ以外が白紙の本だった。

“かつて、世界の中心にマナを生む大樹があった。
 しかし争いで樹は枯れ、代わりに勇者の命がマナになった。
 それを嘆いた女神は、天に消えた。
 この時、女神は天使を遣わした。
『私が眠れば世界は滅ぶ。私を目覚めさせよ』

 天使は神子を生み、神子は天へ続く塔を目指す。
 これが、世界再生のはじまりである。”

 その一文の下に描かれた宝石のような何か。

「世界再生?」

 聞き慣れない言葉に少女は首をかしげる。

『物語のはじまりは、シルヴァラント』

 不意に響いた声に、少女は顔を上げた。だが、近くにはだれの気配もない。

『少女の旅は、そこからはじまった』

 ふわり、と本に描かれた宝石のようなものが浮き上がる。それは少女の目線の位置で止まった。

『“見守りし者”、その魂を宿す少女よ。かの世界へ───』

 ふっ、と宝石のようなものが消えた。次の瞬間、感じたのは額の鋭い痛み。
 その痛みに、少女は意識を手放した。
 かくして世界再生の物語ははじまる。

(Prologue)



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