短編 | ナノ


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a drop colorの続編









俺は昨日、1人の女の子から告白された。そして俺は振った。
その日から自分の視界が変わった気がする。
振ったあいつの目が見れない。なのにあいつの姿は目で追ってしまう。そんな矛盾に捕われていた。

俺には別に好きな奴がいる。

そう、思ってた。多分その気持ちは勘違いなんかじゃなく、本物だった。
それなのに、こんな矛盾に捕われるのは何故だ…?



「一樹会長」


そう呼ばれて振り向くと、俺の好きな奴が笑っていた。なんだと聞くとお悩みですねって。
そんな人の変化に敏感なこいつが好きだ。


「俺は、お前が好きだ」

「って今ご自分に言い聞かせてるんですか?」


彼女は苦笑しながら首を振った。どうしてそうなるか分からない。俺は手を伸ばし、その細い肩を掴もうとした。

掴もう、とした。
しかしその手は届く前に下ろされた。誰に止められたわけじゃない、自分の意志でだ。


「本当は分かっているはずですよ。今、好きな好きな人が誰なのか」

「どういう…」

「それは一樹会長がご自分で気付くべき所なんです。」


彼女はそう言って笑う。私は一樹会長も名前ちゃんも大好きなんですよと言う笑顔は俺の背中を優しく押した。


こいつの言う通りなんだ。
俺がこいつを好きだったことに変わりはない。けど、いつかあいつが傍にいるようになって、後輩として可愛がるうちに自分の気持ちが変化していった。

あいつが…
俺は名前が好きだ。

そんな俺は身勝手だ。こんな気持ちの変化が許されるか分からない。ただ俺の背中を押してくれた奴とは違う好きを抱いている。
いや、俺は名前が好きじゃないのか…。

気付いた時には走っていた。早く伝えるために。小さな後ろ姿を探して、俺は走っていた。




「名字名前ー!今すぐ生徒会長のとこまで来い!!」


放課後の学校、そいつがまだいるかも分からないのに俺は叫んでいた。放送を使わず、ただ廊下で叫んでいた。


「ちょ…どうしたんですか?そんな大声で」


思っていたよりもすぐに俺が求めていた人は現れた。昨日の俺が振ったと思えないような自然な態度だった。
いい後輩としてよろしく、か。
昨日の言葉が俺に突き刺さる。今まで自分の気持ちに気付かなかった俺も俺だが…名前も名前だ。


「俺はお前に言うことがある」

「そんな大声でどうしたので…」


名前の言葉が消えた。正確には俺の制服に吸収されたか、驚きで出なくなったか。そんなことより俺の手の中にある温もりに感じる愛しさに口角を上げる。
腕から抜け出そうとする小さな頭を俺の胸に押さえるように手の力を込める。くぐもった声で名前を呼ばれたが、しばらくこうさせて欲しい。


「なぁ、名前。俺が勝手なのは知ってるだろ。それでも好きなのか?」



名前はその問い掛けでおとなしくなる。やがて、小さく頷かれた頭を撫でながら話す。



「俺は名前が好きじゃない。いつの間にか自然に俺に入ってきたからな、あいつが好きだと思ってたから気付かなかったが」

「……」

「好きなんて生易しい感情じゃない。名前、俺はお前を愛している」



本当に自分勝手な感情だ。自分でも気付かなかった感情に好きだと思ってた奴に気付かされて、つい昨日振った名前に告白してるだなんて。
ああ、俺は身勝手だ。

それでも、この胸に渦巻いて姿を表した感情を伝えたかった。名前を身体いっぱい抱き締めてやりたかった。
つい昨日、泣いている名前を抱き締めた時とは違う温かさを感じる。

いつから名前を好きになったかなんて分からない。ただあいつにも抱いていなかった『愛している』という気持ちが、今までの分も同時に溢れ出た。

これだけは伝えたい。
俺は、何があっても名前だけは手放してやらない。誓ってやるよ。

震える肩と背中に回された腕に、俺はまた笑った。


パレット

俺は愛しいお前の涙をいくらでも受け止めてやる


(2011.11.23)







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