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前世のことを考えたら人生終わり。モットーが頭の中を過ぎる。
村田と違って記憶がある訳でもないのに、おれは前世を知ってしまった。それが何だよと思っていた。けれど。
──大好きですよ、ユーリ。
あんたが見てるのは、守りたいのは。大切なのは本当におれなの?
おれの中の誰かじゃなくて?
ひっきりなしに水音が響いている。
「…んぁ、コンラッドっ、もう……!」
焦らすのはやめてくれと涙目で彼を睨む。
「欲しいですか」
しれっと聞いてくるから頷いた。浅ましいだとか恥じる余裕はとうにない。
「あ……っ」
彼の指が再び中を擦り上げ、笑う口元が視界の端に入った。
「ダーメ」
見えなくてもコンラッドが笑っていることくらい判ってしまうのだけど。焦らして楽しんでいることくらい。この性悪。
「あなたを傷つける訳にはいかないですからね。もう少し」
「……んっ」
「ここを広げてからじゃないと」
また指が一本増やされた。空いた左手は胸の辺りを辿っている。
「ほら、声を噛まないで。もっと可愛い声を聞かせて」
ここ、好きでしょう?と言いながら、長い指は胸の飾りを弾く。
「ぁ、あ」
肝心の性器には全く触れてくれない。思わず自分の手を伸ばしてしまいそうになって、慌てて体の脇で拳を作った。
今夜の彼は始めからずっとこんな感じだ。いい加減、酷いと思う。
まぁ、こんな意地悪をされる理由には十分心当たりがある。残念ながら。
「なぁっ、あんたまだ怒ってんのかよ…っ」
「なにを?」
「……夕方、黙って出掛けたこと」
「さあ?」
睨んだ先、過保護な護衛はとぼけたような笑みを浮かべた。胡散臭い。
「おれ、ちゃんと謝ったじゃん!」
「あなたが余りにも同じことばかり繰り返すので、実は反省していないんじゃないかと、思い始めまして」
相変わらず薄く笑いながらコンラッドが言う。
「してる!してるってば…ぁ……っ」
「どうだか」
彼の部屋。彼のベッドの上。
モデルルームのように片付いていて普段はゴミひとつ落ちていない床に、今は二人分の衣服が落ちている。誰かに踏み込まれたら全く言い訳の利かない状況だ。
尤も、キスをしながらしっかり施錠するコンラッドの姿を、最初に確認してはいるのだが。
「そろそろ、大丈夫かな……」
独り言のように彼が呟いた。三本の指が中でぐりっと回されて、いっそう酷い水音が立った。
「ユーリ、挿れるから後ろを向けますか」
「ん……」
言われるがままにおれは従う。
「そう、そのままもう少し腰を上げて」
自分が今、どんなに恥ずかしい恰好をしているかなんて全く考えられない。
「いい子ですね」
「ひ、あっ」
しどどに濡れた彼の指が性器に触れる。ご褒美だというように何度か扱き上げて、そのまま根元を押さえ込んでしまう。
「ちょ、コンラッドっ、なに……」
ゆっくりと彼が入り込んできたせいで、そこから先の抗議は声にならなかった。
散々焦らされていたせいか、頭が真っ白になるほどの快感に襲われる。
「動きますよ?いい?」
答えを待たずに抜き差しが始まり、耐え切れずシーツへ爪を立てた。
「ユーリ…っ」
少しだけ余裕をなくしたような、荒い息まじりの彼の声を聞くのが好きだ。
「あ、ぁ…や…コンラッドぉ!」
次第に激しくなる抽挿。膝が崩れそうになる。
何度も名前を呼び合った。彼に名前を呼ばれるだけで、おれは幸せな気持ちになる。コンラッドがくれた、大切な名前。
「っユーリ…!」
いつの間にか意地悪な指は外れていた。
「……ああっ、ん!」
もう何も考えられない。大きな手の平が性器を包み込む。一気に絶頂へと上りつめる。
「あ、あ―――っ!」
いっそう奥にまで打ち付けられた瞬間、おれはあられもない嬌声と共に劣情を吐き出して、落ちた。
2013.5.30
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