居場所
.
「うーん。」
私は自室で文机に向かい、一人唸っていた。
「かえちゃん?なにしてるの?」
「う、うわっ?慎太さん?」
振り返ってみると、思いのほか近くにある彼の姿にびっくりして、ばさばさと文机に広げていたものを隠すように片付けた。
「急に後ろにいるからびっくりした〜。おかえりなさいっ!」
「ただいま」
にっこりと笑う慎太さんをみるとつられてにっこりと笑顔になっていく。
「急に帰ってきたわけじゃないんだけどな…さっきから何度も声を外からも部屋に入ってからもかけたんスよ」
「え…?ごめんなさい。全然気づいてなかった」
「いいよ、気にしないで。ところで、何をそんなに真剣にみてたの?」
「え、あぁ、なんでもないですよ?」
文机に背を向け、曖昧に言葉を濁した私に慎太さんは「ふうん?」とちょっと納得のいかないような表情を浮かべたものの手に持っていた包み紙を目の前に持ち上げて「これ、おみやげ」と笑った。
みんなはまだ帰って来てないので二人分のお茶を淹れ、縁側に急ぐと、片膝を立て、その上に頬杖をつく慎太さんが空を見上げながら何かを真剣な表情で考えている様子。
(お仕事の事でも考えてるのかな? ふふ、かっこいい)
じっと見つめてたら視線を感じたみたいで、こっちを振り返ると手招きをした。
二人で並んでお土産のおまんじゅうを頬張って、他愛のない話をしながら寛いでいると慎太さんが急に黙り込んで、その後真剣な表情で口を開いた。
「さっき見てたのって、前居たところのものっスよね?
もしかして・・・」
(うわ、見えちゃってたんだ・・・)
「もしかして・・・もと居たところに帰りたくなった?」
「ち、ちが」
慌てて否定の言葉を発しようとしていたのに、慎太さんによってそれは遮られた。
きついほどに抱きしめられていたのだ。
「ごめん……。里は恋しいのは当然っスよね。帰りたいというなら帰してあげないといけないだろうけど。
でも!でも、俺はかえちゃんを離してあげられないっス!!
もう無理……ごめん……」
懇願のような切ない慎太さんの声に胸の奥がきゅっと音を立てた。
「慎太さん。確かにさっき私、前居たところのものをみていたけど、別に帰りたいとか思ってないですよ。
今までは、あれをみてるとちょっと切ない気持ちになったりしてたけど、今日みてても懐かしいという気持ちになることはあっても不思議と帰りたいとかそういう気持ちにはならなかったんです」
「そうなんスか?」
「ええ。それで、私の居場所がもうだんだんと以前の場所ではなく、ここ、慎太さんの隣になってるんだなぁと思ってたところに慎太さんに声をかけられたので慌ててしまって」
「…なんだ…そっか…そうだったんスね」
そういって破顔した慎太さんは「慎ちゃん」と呼んでいた頃を思い起こさせた。
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