うさ様ご到来

*以下注意書きをお読みください。
○完全にオリキャラが出ます。苦手な方はブラウザバックでお願いします。名前変換は目次から。
○神道について話している場面がありますがあくまでオリジナル設定です。ご理解ください。

大丈夫という方のみスクロールで。↓
























日の光を透かすような銀髪、少し垂れ目気味などんぐり眼、とぼけたような幅の狭い口。
見れば見るほど納得できる。
というより言われてみればそうとしか見えない。
どうして気付かなかったのだろうかと不思議なくらい、似てる。
2人はどこから見ても兄妹だ。
しかし、と白澤は思う。
それでも疑いたくなるほどにどうしてこんなに性格だけが違うのだろうか。
当の兄は今、通されたリビングの椅子に座りながらきっと目を釣り上げて白澤と鬼灯を交互に睨んでいた。
気を利かせた桃太郎がお茶を淹れても話を振っても答えるのは咲月ばかりで兄は2人の男を威嚇し続けるだけだった。

「へえ。じゃあもう一通り地獄観光は行ってきたんだ。」

「そうなんです。血の池とか私も見たことなかったから感動しちゃいました。」

「楽しかったよな、デートみたいで。…どっかのお邪魔虫に気安く話しかけられるまでは。」

ひゅん、と場の空気が冷たくなった音が聞こえた気がした。
やっと口を開いたかと思えば兄はあくまで咲月に話しかける体で不満げに言った。
咲月が目を瞑って申し訳なさそうに眉根を寄せた。

「すみません。知人に似てたものですからつい。」

そう言って鬼灯は無表情で首を傾げた。
言いたくないが結構な迫力だ。
この顔を見てまでどうしてこの兄はこんなにも態度が悪いのか。
性格だけ見ればこれがあの臆病だけど人好きのする咲月の兄とは到底思えない。
やはり同じ狛うさぎにもいろいろいるらしい。

「すみません鬼灯様。折角いろいろ案内してもらったのに、この人本当に失礼で。ちょうどその前に会った唐瓜さん達とシロさん達にも、春一さん?って方と間違われて、うんざりしちゃってたところだったんです。」

「春一さん、すか?」

聞きなれない名前に桃太郎が口を挟んだ。

「八寒の雪鬼ですよ。全体的なフォルムが霜月さんにそっくりなんです。」

どうやらこの兄は名前を霜月、と言うらしい。

「お邪魔した詫びと言ってはなんですが、地獄銘菓の和菓子買って来たのでいかがですか。」

「わあ、お菓子ですか?」

霜月はピクッと反応して目を開き、お菓子と鬼灯を交互に見たかと思うとすとんと憑き物が落ちたように肩の力を抜いた。

「…え、あんた、いい奴だな。ありがとう。」

あ、このチョロさは兄妹だ。と白澤は思った。
桃太郎も同じことを思ったようで苦笑いをしている。
霜月は続いて思い出したという風にとん、と手を叩いて足元に置いていた紙袋に手を入れた。

「あ、そういえばこれ、うちの神社の近くで売ってるうさぎ最中。妹がお世話になってます。」

出てきたのは箱に入ったお菓子だった。
鬼灯と桃太郎と、ご丁寧に近くにいるうさぎ達にも頭を下げて渡して回っている。
最も、白澤に渡すときは存分に威嚇しながらだったが。

「何、今神社の近くにうさぎグッズなんて売ってるの?」

咲月が不思議そうにお菓子の包装紙を手にとって眺めた。

「ああ、なんか最近うち人気なんだよ。可愛い狛うさぎがいる神社とか言って。よく女子大生がごついカメラで写真撮ってくんだ。」

ほら、と言って差し出されたスマホの画面を見て咲月は兄様すごいです、と感嘆の声をあげた。
桃太郎も画面を覗き込んでおお、と声を漏らす。
これ、俺ね。と言って渡されたスマホの画面には女子大生のインスタ○ラムの投稿と兎の石像の写真が映っていた。
青空をバックに少し雪の積もった石像がよく映えている、中々センスの良い写真だった。
投稿には『噂の狛うさぎがいるっていう神社に来てみました!可愛い!』とテンションの高い文が書いてあった。

「まあ、行ってみたくなる気持ちはわからなくもないですね。」

鬼灯の言葉に霜月はそうか?と言ってわかりやすく照れて頭をかいた。
咲月より少し表情が豊かかもしれない。

「しかしあんた、こう見ると中々涼しげな顔でいい男だな。真面目そうだし。あんたになら咲月をやれない事もないかも。」

霜月がさっきまでとは一転、態度を変えて鬼灯に話しかけた。
やっぱりちょっとちょろすぎやしないだろうか。

「ちょっと兄様、失礼なこと言わないで。鬼灯様はとても偉い鬼神様なんだよ?」

「咲月、こっちにしろって。このスケコマシそうな男よりいいって。」

「兄様、どうして白澤様がスケコマシってわかったの?すごい。」

咲月は感心したように兄を見た。

「咲月ちゃん、僕も一応結構偉い神獣なんだけど。」

「そんなもん顔でわかるよ。顔で!」

霜月は白澤の言葉を無視して言った。

「昼間散々私が淫獣の害悪さを説明しましたからね。」

鬼灯の言葉に白澤はピクリと眉を動かした。
ここで、白澤の対抗心がむくむくと顔を出す。
アイツが気に入られて僕が気に入られないなんて、と。
白澤は鬼灯が絡むと妙な対抗心を持ってしまうのである。
ガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。

「お兄さん、桃あるよ。仙桃。今剥くね。」

「え、桃?咲月、桃だってよ。ごちそうだな!」

チョロい。チョロすぎる。
と白澤はむしろ少し不安になった。

「桃は邪気を祓って不老長寿を与えるって言われてるんだ。特にこれは仙桃って言ってね、この桃源郷にしかない特別なものなんだよ。」

ことり、と手際よく剥いた桃を出すと、咲月と兄がお揃いのきらきら顔で皿を見つめた。
なんというか、セット感がすごい。
顔立ちも格好も似ているし、表情も似ている。
椅子が一個足りないということで当然のように半分こして座る姿は兄妹というよりは双子のようだった。

「白澤様、私も食べていいんですか?」

「もちろんだよ、今日は特別。桃タローくんも好きなだけ食べな。」

「え、ほんとすか。わあ、いただきます。」

斜め前に座った鬼灯にだけは声をかけなかったが勝手に一個取って食べていた。

「!」

不意に、霜月が仙桃をひとかけ口に含んだまま数秒固まる。

「どうかした?」

「……。」

霜月はきょとんとした表情で仙桃を見つめた。
と思いきや、隣の咲月の方を向いてじっと見つめる。

「…?」

「咲月、お前…」

テケテンテンテンテンテンテンテン♪
テンテレテンテケテンテンテンテンテンテン♪

霜月のスマホがなってうさぎ達(咲月達含む)がビクリと体を揺らした。
びっくりするなら着信音を変えればいいのに。
アイ○ォンの初期設定は人間でもちょっとびっくりする。

「お、主様からだ!後でフェイスタイムしよって約束してたんだよ。久々にお前の顔見たいって。」

「え、主様スマホにしたの?」

咲月は驚いたように言って霜月のスマホを覗き込んだ。
神社の神様がスマホでフェイスタイムというのはなんだかシュールで不思議な感じがする。

「ああ、やっと顔が見られた。久しぶりだね咲月。元気にしているかい。」

優しげな声で言ったその人の顔を見た途端、咲月は傍目にわかるくらい息を呑み、涙を堪えるように唾を飲み込んだ。
普段から表情のわかりにくい咲月としては、本当に珍しいことだ。

「あるじ様。ご無沙汰しています。連絡もしないで、ごめんなさい。」

「いいんだよ。私もできるならそちらへ行って、咲月が世話になっている方達へご挨拶がしたかった。けれど何せ今はここを離れられない身だ。」

咲月の主だというその人は、烏帽子をかぶり白い着物を着た物腰の柔らかい好青年といった風貌だった。
古くからある祠の神というには少し幼さも残るその見た目は、落ち着いた話し方とは合っていない。


親というには遠く畏まりすぎている。しかし他人や上司というにはあまりに固い絆で結ばれている。
主従、忠義。2人の間にはそんな言葉が似合うような距離感があった。

その後は白澤や桃太郎と代わってほしいという咲月達の主とテレビ電話で会話をして、小さい頃の咲月やなんかの話をしているうちに盛り上がって最終的にはなぜか酒盛りにまで発展した。









「悪いな。これあんたのベッドだろ。」

白澤が自室の部屋を覗くと霜月が言った。
コップに入った紹興酒を煽りながら疲れて寝てしまった妹の頭を撫でている。
結局、テレビ電話を切ってからも酒盛りは続き、最後は飲み比べにまでなってしまった。
桃太郎が早々につぶれ、鬼灯がキリのいいところで帰るのを見送り、すっかり暗くなった空を見た咲月がごり押しして霜月は泊まっていくことになった。
一度風呂に入って3人で飲み直そうと意気込んだはいいものの、白澤があがる頃には咲月はテーブルに突っ伏して寝てしまっていた。
久しぶりの兄との再会に嬉しくてはしゃぎすぎたのだろう。相変わらず表情ではわかりにくかったが。

結局抱っこして運ぼうとした白澤を威嚇で止めた霜月が自分とさして体格の変わらない咲月を軽々と抱き上げてベッドまで運んだのだった。

「気にしなくていいよ。最近外出が多かったみたいだし、疲れてたんだね。咲月ちゃんの為なら僕は床で寝るくらいわけないよ。」

「……。」

白澤が言うと霜月は難しい顔をした。

「正直あんたのことはもっといけ好かない奴だと思ってた。格の高い神だって聞いてたし。」

「咲月ちゃん、僕達の話してたんだね。」

「ちょっとだけだけどな。」

「…君と咲月ちゃんは、似てるようでいて似てないね。」

白澤は赤ん坊のような顔で眠る咲月を覗き込んで言った。その頬を愛おしそうに撫でる兄の表情を見れば2人の関係性はよくわかる。
愛護と憧憬。両者は決して対等ではないのだろう。
神使なんて、兄も妹もないようなものではないのだろうか。

「外身はよく似てるって言われる方だけどな。中身はまるっきり違う。」

「まるっきりってほどじゃないよ。似てるところも多いし。でも、やっぱり違う。」

霜月は少し笑って懐かしむように目を細めた。

「こいつは昔っから体も力も弱くて、いっつも俺の後ろに隠れてた。同じように作られた筈なのにどういう訳なんだか。祠に悪さする妖怪一匹追い払えないもんだから俺は苦労したんだよ。」


「…ねえ、聞きたい事があるんだけど。」

白澤が言うと霜月はわかっていたかのようにこちらを見据えた。

咲月と同じ銀色の髪。
月光に透けるその色は、神秘的な光を秘めている。
神の遣いにふさわしい姿だ。


「咲月ちゃんがここに来た本当の理由はなに?」



「……。」

霜月はコップの紹興酒を一気に煽った。

「それは俺が聞きたいよ。あんたには、なんて言ったのさ。ここに来た理由。」

「初めてここに来た時は新しい神社が大所帯で居心地悪いからって言ってた。」

「……。」

霜月の様子に白澤は確信した。
2人は何かを隠している。

「でも今日の咲月ちゃんの様子を見ててやっぱりおかしいって思った。それだけの理由でこれだけ仲の良い君や主殿のところを離れるっていうのはいまいち納得がいかない。電話の様子じゃ他の神々とも仲良さそうだったしね。
それに、前に咲月ちゃんは遷座した神社に『厄介になってた』って言ってたんだ。
でも昼間の写真を見たところ君は今も神社に置かれてるみたいだし、何か事情があるように思えるんだけど。」

霜月はしばらく黙り込んでから迷うように口を開いた。

「日本の神様ってのは、全能じゃない。この国では全てのものが自然の理の上に存在してる。だからこそ、神であっても細かい決まりやルールが無視できないんだ。『俺達』としても頼れるとしたらあんたしかいないのかもな。」

「……。」

白澤が促すような視線を送ると霜月は決意したように目を一度閉じて、開けた。

「咲月は今、どこにいるのかわからないんだ。」

その日はちょうど新月だった。





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