は忘れた頃にやってくる

*完全にオリキャラが出ます。
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「おはようございます、白澤様。」

「尓早〜」

トントントンと小気味良い音が響くリビング。
朝食の準備をする桃太郎に目をやって白澤は違和感を覚えた。
いつもと違う。

「あれ、咲月ちゃんは?」

「咲月なら朝早く出て行きましたよ。珍しく振袖なんか着て。」

「…………え!?」

何が違うって1人少ない。
白澤が心底可愛がる例のうさぎが今朝はいなかった。
だが今日は第2木曜日、店の定休日である。
お店が休みの日に彼女がどこへ行って何をしようと自由なはずなのだ。本来は。
ただあのうさぎのこととなると白澤にとっては話が変わってくるのである。

「振袖って、もしかして…」

「ほら、白澤様と一緒に買いに行ってたやつっすよ。咲月振袖なんてあれしか持ってないし。」

白澤はガクッと崩れ落ちた。

「そんな…僕だって、まだ着てるとこ一回しか見たことないのに…」

「……写メ撮りましたけど見ます?」

しかし桃太郎のその一言で復活する。

「見る!!ていうか送って!引き伸ばして部屋に飾る。」

「それをしないって約束するなら送りますね。」

「わかったしないから送って。」


桃太郎に送ってもらった写真には例の撫子柄の振袖を着た咲月がおきまりのきょとん顔をしている姿が映っていた。綺麗にまとめられた銀髪にはお香にもらったと自慢していた鈴蘭の簪がさしてある。

「はあ〜可愛い。」

しばらくの間にやにやと締まりのない顔で見ていた白澤だったが、突然ダンと、テーブルを叩いて立ち上がった。

「じゃなくて!」

「な、なんすか?」

「こんな最高に可愛い格好してどこ行ったわけ?まさか、今度こそ馬の骨?」

「さあ、知りませんけど。なんかそわそわしてましたね。」

「絶対馬の骨じゃん!桃タローくんどうして起こしてくんなかったの。ああ〜。もう今からじゃ尾けることもできないよ。」

「絶対馬の骨って。微妙に日本語の使い方間違ってますよ。」

苦笑いで言う桃太郎の言葉は無視した。

「それにしても、咲月は最近外出が増えましたね。」

そう。そうなのだ。
咲月は近頃あまり家にいない。
メス会だの、お香とお茶だの、シロ達と遊ぶだのが続いたのもあるが、それにしても家を空ける事が多くなった。
特にここ最近は晩御飯をうちで食べるということがほとんどない。
おまけに白澤は心なしか家にいる時も咲月に避けられているような気さえしていた。

「どうしちゃったのかねー。」

「逆に白澤様は最近遊びに行かなくなりましたね。」

「まあ。そっちはちょっとね。」

「まさか、ついに…」

桃太郎は真剣な顔をして白澤に向き合った。
これで彼もちょっとは見直してくれるのだろうか。

「病気ですか。しもの。」

彼は僕をなんだと思っているのだろうか。
白澤は思わず少し不安になった。

「僕は吉兆の神獣だよ?性病になんかなるもんか。」

桃太郎は不審物でも見るような目を白澤に向けた。

「ていうか、ひょっとして咲月ちゃんの外出が増えたのって僕が家にいる時間が増えたからとか?」

「ああ、なるほど。退職した夫が家にいるようになると鬱陶しくなるみたいな。それはあり得るかもしれませんね。」

ガクッと白澤は再び崩れ落ちた。
例えそれが単純な鬱陶しさから来るものでなかったとしても、避けられるのはしんどいものがある。









しかし、人間不安な時は時間が長く感じるものである。
ぱかっと携帯を開いて設定したばかりの待ち受け写真を見るのは本日何度目かわからない。
白澤はテーブルに突っ伏したまま溜息を吐き出した。

「辛気臭いため息ばかり吐かないでくださいよ。暇なら予約の薬でも作ったらどうですか。」

桃太郎が手を止めて言った。
彼は今台所の換気扇を掃除していて暇な白澤の相手をしてくれない。
どうも彼は彼で何かをしていないと落ち着かないらしい。
しつこい油汚れと格闘中だ。

「咲月ちゃんが馬の骨とデートしてるかもしれないってのにそんな気分になれないよ。」

桃太郎の嫌がる溜息を一段と長く吐いてますますテーブルに突っ伏すと、不意に手に持っていた携帯が音を立てた。

「う、わあ」

咄嗟にばっちいものでも触ってしまったかのように携帯を投げすてる。
なんてことだ。この気の晴れない日に追い打ちをかけるようにアイツからの着信とは。

「え、何、どうしたんすか。」

「地獄の闇鬼神からメール。何の用だよ。納期はまだだよね。」

メールのタイトルは『神獣ざまあ』だった。
それだけでもおでこがピキッと音を立てたのがよくわかったがとりあえず落ち着こうとお茶を飲む。

メールは本文が白紙で画像が一枚だけ添付されていた。
白澤は画像を開いてみて、お茶を吹き出した。

「なにやってんすか!大丈夫すか?」

添付されていた画像には、咲月と知らない男が地獄名物ジャンボたこ焼きを手にピースして映っていた。

「ああ、こりゃ…」

「完全に、デート…」

白澤はとりあえず布巾を持ってこようとする桃太郎を手で制して立ち上がる。
ふらふらと歩いて自室にもどり、ばふっとベットに倒れこんだ。








しかし、人間放心すると時間が短く感じるものである。
ベッドでごろごろとしていた白澤は店の扉が開く音を聞いて飛び起きた。
時刻はもう夕方になっていた。

「咲月ちゃん!」

しかしお店の方へ駆けて行って白澤は眉を顰めた。
そのまま足を止めずに飛び蹴りをする。
それはひらりと避けられて代わりに黒い金棒が顔面に叩きつけられた。

「ごきげんよう。白豚さん。」

「なんでお前なんだよ!」

お店の入り口には白澤が心底嫌いな鬼が立っていた。

「白澤様、大丈夫ですか…?」

その鬼の背からひょこりと顔を出した咲月を見て白澤は表情を一変させた。

「咲月ちゃん、おかえり!」

「ただいま戻りました。」

「どうも。」

そして更にその後ろから覗き込んできた顔を見て笑顔のまま固まった。

「う、馬の骨!」

咲月の後ろから顔を覗かせたのは、昼間のメールに添付されていた写真に映っていた男だった。

「待って!お嬢さんを僕にくださいとか言われても、僕まだ心の整理できてないから!」

「白澤様、彼まだなんも言ってないっす。いらっしゃい。とりあえずどうぞ上がってください。」

桃太郎が明らかに動揺しながらもとりあえず家に入るよう勧めたが、当の馬の骨はといえばそちらへ見向きもせずにずんずんと白澤の方へと歩いてきていきなり胸倉をつかんだ。

「言うならちゃんと言えよ!心の整理とか言い出す奴に咲月をやれる訳ないだろ!」

「?」

「?」

桃太郎と白澤は完全にぽかん状態である。
咲月だけが慌てた様子であたふたしている。

「お前だろ!咲月の処女付け狙ってる淫獣ってやつは!」

「に、兄様!ばかばか何言ってるの!」

真っ赤になって男を引き剥がす咲月の言葉に白澤と桃太郎は目を見開いた。

「「兄様!?」」

災難は忘れた頃にやってくる。



(ていうか、やっぱり処女なんだ。)

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