結納は要りますか

酒を煽った翌日は、非常につらい二日酔いに襲われるのだが、懲りもせず煽るのが海賊である。

白ひげ海賊団・魚人海賊団の宴が、昨日開かれた。その為、双方共に二日酔いでクルーに張りが無い。
元気なのは下戸と上戸と白ひげ海賊団女性陣のみである。


「その……、二日酔いは大丈夫ですか。マルコさま」
「あ〜……ちょっとばかし眩暈がするだけだよい」


昨晩は、普段はそんなに深酒しないマルコが、白ひげと同じペースで飲んで潰されていた(白ひげは二日酔いになってない)

ステラはナース達と少ししか飲んでいない為、闊達としている。


「随分な深酒をしていましたけど、どうかしたのですか。何か悩み事でも……」
「何でもないよい。ただ、ちょっと自棄になっただけだ」


心配そうに見上げてくるステラに、マルコは苦笑した。昨日、白ひげのクルーの大半が深酒した理由はステラなのだが、それと言うのも憚られる。


「ステラの故郷の、九蛇ってのは、どんなところだい」
「九蛇は、国ではなく、私の故郷『アマゾン・リリー』を統治する民族です。『アマゾン・リリー』は、女性しかいない帝国ですが、……男の方は行かないほうがよいと思います」

「なんで男は駄目なんだよい?」
「『アマゾン・リリー』は男子禁制なので、入国すると、男はみな、護国の戦士に殺されます」
「え」
    
「九蛇は女系戦闘民族ですから、護国の戦士はとても強く、もう三百年ほど、男子禁制は破られていません」
「女系、戦闘民族……ステラも?」

「はい。九蛇の者は皆、幼い頃から戦士として育てられます。私も、体調の良い日は鍛えられました」


儚げに微笑むステラが、幼少より鍛えられたとは思えない。針より重いものを持ち上げたことのないような細腕に、折れそうなほど華奢な四肢。
妖艶というより清楚な印象を与える、すっきりとした体で、戦闘民族とは思えない。

だが、ビスタから聞く限り、ステラの覇気は『覇王色』だという。覇気を持つ者さえ珍しいグランドラインで、『覇王色』を持つ者は、殆ど居ない。


「ステラは、九蛇の中じゃ強いほうだったのかい?」

マルコの問いに、ステラはただ微笑んだだけだった。優しく、儚く、哀愁のようなものを浮かべて、ステラは微笑んだ。

言葉でこそ答えはないが、その沈黙が、その微笑みが、答えだった。


「……ステラは、その、『アマゾン・リリー』に行きたくはないかい」
「?」

意味を諮りかねて、ステラは小首を傾げた。


「ほら、ステラには叔母が居るんだろい?結婚前に、顔合わせとかしたほうが良いんじゃねぇかと思案してんだよい。何事も、特に結婚みたいな人生の一大事は、手順に則らないと」

「……その事でしたら、『アマゾン・リリー』に行く必要はありません」
「?」

「男子禁制ゆえに、結婚となれば、女は九蛇より外に出なくてはなりません。ですが、九蛇の女は、本当は……出奔してはならないのです。出奔すれは、裏切り者として、再び戻ることさえ許されません」
「何っ?!」
「そっ、それ、本当なのか?」

マルコの背後の曲がり角から、ビスタとサッチが顔を出す。
マルコは驚き呆れたが、二人はそんな事は気にしない。


「ええ。今の私は、自らの意志で九蛇に帰らないのですから、立派に裏切り者です。ですから、顔見せなど叶いません。まして、叔母は皇帝……規律破りを禁止する側ですから……」

「そうか……ま、挨拶に行かなくていいなら、参列は九蛇からはないな。オヤジの知り合い……赤髪とか呼ぶか?」
「政府が飛んでくるぞ」
「いーじゃねーか、騒がしくて。まさか結婚式をぶち壊したりしねーだろ」


海軍も、白ひげの結婚だなどとは信じられないだろう。
何せ、海賊が結婚式を挙げた例なぞないに等しい。あのロジャーでさえ、ルージュとの結婚式を挙げたりしていないのだ。


「赤髪とは、どなたですか」
「グランドライン後半の四大勢力"四皇"の一つ、赤髪海賊団だ。因みに、オヤジも"四皇"だ」
「では、その赤髪さまも、同じくらい強いのですね。是非、お会いしとう存じます」

ふわりとステラが微笑んだのを見て、マルコ達はほっと息をついた。故郷を話すステラは、微笑んでいても楽しそうではなかったためだ。
が、安心したのもつかの間。マルコ達の肩が、背後から掴まれた。

「マルコ隊長……?」
「何を話してたのかしら……私には、赤髪を結婚式に招待するように聞こえたのだけど」
「ま・さ・か、そんな事ありませんよねぇ……?」

ぎくりと身じろいだマルコ達が振り返ると、ナース達がにっこりと笑いながら肩を掴んでいた。

ぎしぎしとなる肩が痛い。
戦場をくぐり抜け、多少の事では顔色を変えない隊長達が、さっと青ざめた。


「ステラちゃん、ちょーっと隊長達と話すことがあるから、借りてくわね」
「では、私はエドワードさまのところに戻りますね」


にこっと明るい笑顔で微笑み、ナース達はステラを見送る。だが、その手は血管が浮き立つ程の力で、隊長達の肩に食い込んでいる。

ステラが居なくなった瞬間、殺される。隊長達の本能は、そう訴えていた。
ステラは、隊長達の必死の願いも虚しく、甲板のほうに戻っていってしまった。


「た・い・ちょ・う?」

――背後から、地獄の使者の声がした。


(赤髪がステラちゃんに惚れたら、どうしてくれるのよっ!)(断固!反対!)(カイドウも呼んじゃだめだからね!)
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