追われて

ガシャンと、枷の外れる音がした。涙が、零れた。

有り得ない筈の現実に、涙が止まらなかった。


燃え盛る炎。天竜人の唸り。

逃げる仲間たち。

どさりと傍らで転んだのは、同様に、宴の余興に悪魔の実を食べさせられていた子だ。

同じ故郷から、同じように掠われた子供。
ステラが命を賭して守り続ける子だ。

「ハンコック、大丈夫?!」
「あ……そなた、は」
「早く立って。妹達は?」
「はぐれて……っ!」

ぼろぼろと涙を零すハンコックに、ステラは手を差し出した。

「諦めては駄目よ、まだ頑張れるでしょう。探しましょう、今はぐれたらもう会えないわ」
「頑張れるわけ、……っ」

「鎖がない今、頑張れない筈ない。自由なの、ハンコック。私達、自由なのよ!」

忌まわしい錠が外され、海珱石もない今は、能力だって使える。

ハンコックを立たせると、ステラは一緒に走り出した。

人ごみのなかに視線を巡らせ、必死に走る二人の少女を探す。

「……居た!あそこよ!」

ステラが指差した先には、転びながらも何度も起き上がる、二人の姿があった。

「ソニア!マリーゴールド!」
「姉様!」
「姉様、よかった、……!」

三人は、ひしと抱き合い、涙する。
ステラは少し離れて見守り、そっと目頭を押さえた。

周囲の逃げていく人の数が減っていく。ステラは、三人を急かそうと視線を向けた。

だが、その視線の先、三人の向こうに忌まわしい男の影を見つけ、肩を震わせた。

「逃がさん……ぞぉ……」
「!天竜、人……!」
「貴様ら奴隷……逃がさんぞ!」

銃を手にどかどかと迫る、忌まわしい男たちが吠える。
ステラは、ハンコック達を背に庇い、対峙した。

背後でハンコック達が震えているのが、ひしひしと伝わってくる。


「ハンコック、逃げなさい」
「そなた、しかし、」
「逃げなさい!妹と生きたいんでしょう!それ以外は切り捨てなさい!」


びっくりしたように、三人が目を見開く。
戦火に照らされた彼女らは、本当に幼くみえた。


「……東の海岸に、『扉』を作ってあるから、それで逃げなさい。また会えるわ、きっと」

嘘。ここではぐれたらきっと、会えない。

けれど、そうでも言わなければ、この姉妹は動けない。

「行きなさい、早く!」

ステラの声に、弾かれた様に、姉妹は走り出した。
東の海岸に、ひたすらに。後ろを振り返ることなく。

「逃がさん……!」
「人間なめないで、……天竜人風情が!」


ステラは、足の裏で、だんっと地面を打った。土が盛り上がり、天竜人に襲い掛かる。

無様な悲鳴をあげて、天竜人達が土に呑まれる。その手が銃を振り回し、乱射する。

ステラの肩を衝撃が穿ち、灼けつくような痛みが走る。
当たった弾が爆ぜて、肩から半身がずたずたに裂ける。

「っ、う……っ」

痛みに呻き、ステラは踵を返した。
肩の傷を押さえ、その場から東へ走って逃げる。

ちょうど、『扉』を抜けた気配を感じたと同時に、ステラは海辺に着いた。

手近な木に触れ、悪魔の実の能力を使う。木が小船に変化し、海に浮かぶ。

ステラはそれに乗り込み、海流に乗るところまで漕いだ。
そして、船が流れ出したのを知るや、オールを手放した。

血を失いすぎたせいか、急速に意識が遠のく。目眩がして、ステラは船底に横たわり、目を閉じた。

心配はいらない。次に目が覚めたときに、島に行けばいい。

もう、何処にでも行けるのだから。

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