宣言

「ステラを、この船の副船長にする。異論のある奴ぁ言え、決めた理由を説明してやる」

ステラは、ぽかん、として白ひげを見上げた。にやりと笑う白ひげに、きゅんと胸を高鳴る。が、ステラとてほだされたままではいけない時は、ちゃんとする。


「エドワードさま。私は、副船長にはなれません」
「どうしてだ?」

「わ、私は昨日入ったばかりの、いわば新米です。上下の秩序を重んじなくては、組織がたちゆかなくなります。それに、私は副船長になれる程強くはありません。涙もし、歎きもする――心の弱い女です」

「グララララ……じゃあ、ステラ。もし、おめぇはこの船の機密情報を知っていて、海軍に捕まったとする。情報を吐かねぇと生爪を剥ぐと言われたら、どうする?」
「剥がれます」

「耳を削ぐと言われたら?」
「削がれます」

「目を刔ると言われたら?」
「刔られます」

「足を刻むと言われたら?」
「刻まれます」

「火炙りにすると言われたら?」
「火炙りにされます」


ステラは、矢継ぎ早にくる白ひげの問いに間髪いれず答える。
一切淀みなく、余りに平然と、しかし真剣に言うステラに、クルーは目を剥いた。
そして、自分ならと考え、眉根を寄せて情けない顔をした。


「じゃあ、例えばマルコを人質に取られた。情報を吐かねぇならマルコを殺すと言われたら、どうする?」
「嘘を言って、マルコさまだけを逃がして貰います」

「じゃあ、マルコじゃなく、さっきおめぇに詰め寄ったこの新米ならどうする?」
「同じように、嘘を言って、この方だけを逃がして貰います」


きっぱりとステラは言い切った。
嘘だとばれたときに、ステラは酷い目にあうだろうに。ステラは、自分が証明として残るのだと言ったのだ。


「グララララ!そんなに根性ある奴ぁ、この船にだってそういねぇ。おめぇが副船長だ」


ステラは、とても一途だ、と。
白ひげの皆が思った。
その細く、儚げなステラの容姿からは、想像もつかないような覚悟。
ステラは自身を、心の弱い女だと言ったが、どうしてどうして、並ならぬ強さを秘めている。

大概の女は、拷問の中身を聞いただけで震え上がり、あっさり裏切り、海軍に喋る。
だから、クルーの中には恋人を持つ者は少ないし、女に対し守秘に関しては信頼や期待はない。

だが、ステラとなれば話は別。
白ひげに並ならぬ信頼を寄せ、今ステラが言ったように、強い覚悟がある。
風格も、自分達の上にたつに相応しいと思えるものを持っていた。


「オヤジ。俺は賛成だよい」
「ああ、俺も賛成だな」
「ゼハハハハ、俺も賛成だぜ!」

俺も俺も、と次々に声があがる。
ステラは困惑して、白ひげを見上げた。


「グララララ!全員がいいっつってんだ、副船長はおめぇだ。仕事が山ほどあるから、しっかり頑張れ」
「…あぅ……ですが……」
「ステラ」

ステラは視線をさ迷わせたあと、きっと覚悟を決めた顔をした。

「う……わかり、ました。相応しい人間になれるよう、精進します」
「グララララッ、野郎共!宴だ!」


ウオオオとクルー達が雄叫び、答える。
毎日宴をしている気がするが、クルー達の元気な様子に、ステラは少しだけ、微笑んだ。

すぐさま酒が運ばれて、食堂が騒がしくなる。甲板にも宴が広まり、船中がけたたましく騒がしい。




「ステラ」

白ひげが、そっとステラを呼んだ。

「緊急事態以外で、俺の許可なく悪魔の実の力を使うんじゃねぇ」

「ですが……この能力は、とても便利です。旅をより円滑に出来ますし、それに」

「駄目だ。誰が何と言おうが、許可なく絶対に使うな。……おめぇを軽々しく扱われるのは、俺が、嫌だからな」


逸る心臓に困りながら、ステラはうう、と小さく唸り、それから、こくり、と頷いた。顔が熱くてたまらない。
どうしてこんなに、恰好良い事を言うのだ。ステラの心臓がもたない。


「それは、『三つ』の一つですか?」
「ああ、そうだ。何があっても絶対に聞け。いいな?」
「はい、エドワードさま……!」



白ひげの大きな手が、ふわふわとステラの頭を撫でる。ステラは猫のように目を細め、幸せそうに微笑んだ。



ステラはか細いから、力仕事や夜を徹しての見張りなどは任せられない。

また、料理を任せたら、何を作るかわからない(クッキーはもはや有害物質だった)

また、船医やナースと同じ治療班というのは、白ひげ自身が反対した。

ステラの全ては白ひげの為にあるべきで、例え息子であろうとステラが白ひげ以外の男に触れるのは許せないからだ。

また、戦闘員などにしたならば、ナース達はかんかんに怒るだろう。

以上により、ステラには、白ひげにおいて出来る仕事はないとなった。



だが、ステラが生きやすいように、白ひげはステラに仕事を与えたかった。

そして、常はマルコが一番隊と兼ねている副船長に任命することを思い付いた。

副船長は、各隊からの報告を纏め、白ひげに提出したり、白ひげが不在時もしくは多忙時に、判断を下したりする。

非常事態を除けば、隊員になるよりは安全で、白ひげのそばにいることも多い。


また、ステラがもつ存在感は、新米隊員というには似つかわしくない。他者とは違う、月神のような――上位に立つべき人という風格がある。
冷たい、つんと澄ましたような安いものではなく、生来持つ人としての格が、人よりも上というべきか。
とにかく、ステラに下っ端というのは似合わなかった。

ちなみに、ナース達は賛成した。
どこかの隊に配属されるよりはいいし、白ひげのそばにいることが多いならば、ナースのそばにいることも多いからだ。


「エドワードさま?」
「おめえは良い女だなぁ、ステラ」
「……?」

不思議そうな顔をするステラに、白ひげは目を細めて笑った。


(ステラに息子どもを託す)(まだ死ぬつもりはねぇが)(ステラなら、任せられる)
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