聞いた事がない

夢で、誰かに問い掛けられた。

ステラは、これをしたいんだって主張したり、我を通したりしないのはどうして?
姉様はいつもそうなのに。

それに対して答えることができなくて。
ただ微笑むだけ。


また、問い掛けられた。

ステラは白ひげに居たいか、と。

また、答えることが出来なくて。
痛む胸を押さえて、俯いて。
そっと頭を撫でてくれた手が、懐かしくて。無性に欲しくてならなくて。
ほろりと涙が伝って。

何も我慢しなくていい。自由なんだ、と言われて。


やっと、頷くことが、できた。

とても優しい夢を見た。





“恋の病”と診断されてから、ステラは食事も取らず、徐々に痩せてきた。

熱も胸の痛みも一層ひどいものとなり、掠れる声ももう滅多に零れなくなった。

「………」

ぜいぜいと落ち着かない息だけが響く。
それが、三日目の昼、甲板での騒ぎ声に掻き消された。


「……?」
「ニョニョニョ?来たニョかの」


ステラがニョン婆に目で尋ねると、ニョン婆はにやりと笑った。


「白ひげ海賊団が」
「っ……どうし、て……?」

ふんふんと上機嫌に、ニョン婆は甲板に向かう。ステラははっとして息を飲み込み、掠れた声をどうにか発する。


「まさか、ニョンさま……」
「さーあ、何のことだかわからんニョー」
「どうして、」

ぱたん、と扉が閉まる。何とか体を起こそうとしたが、むなしくシーツを掻いただけだった。



「海賊だーっ」
「逃げろっ!もっと早く!」
「無理です!追い付かれ……っ」


海賊船――それも相当大きい船だ。
その海賊旗が明らかになったとき、見張りも甲板のクルーも腰を抜かし、恐怖で震えた。

「し、白ひげ……っ」


十字に髑髏、白いひげの海賊旗。
それが示すのは、四皇が一つ、白ひげ海賊団。泣く子も黙る、最強の海賊団だ。

船が横につくと、板が船渡しに船縁に置かれる。クルー達は隅に縮こまり、がくがくと震える。
恐面の海賊達に怖じけづいたクルーを見、マルコは親父を振り返る。

その顔は真剣で、普段の豪快な笑い声もなく、うっすら覇気が出ている。
船渡しを渡ると、ますますクルー達はざざっと引いた。だが、そんなものには目もくれない。

白ひげ、マルコに続きナース達も船渡しを渡る。その顔は真っ青で、葬式の参列のように暗い。
渡らない他の海賊達も、暗い顔をしている。それが一層、恐い顔にしている。


「おい、ステラはどこだ」
「ひぃぃっ」

白ひげがクルーに聞くが、がちがちと噛み合わない歯を鳴らすだけで、答えは返ってこない。


「それぐらいにしてくださらんと、困るニョ。せめて覇気だけでも押さえてくれんかのー」
「あぁ?」
「お初に見える。わしは、ニョン婆。ステラを九蛇に同行しているニョ」


白ひげがマルコを見ると、マルコは頷いた。マルコだけが、その老婆がステラの同行者だと知っているからだ。


「遠路遥々来てくださって、とても嬉しいですじゃ。白ひげ、であってますな?」
「ああ。俺ぁ、エドワード・ニューゲートだ。……ステラは、どうした?」

「ほっほ、急いてはなりませぬ。会わせる前に、ちょいと話しと治療方を教えますニョ」


白ひげが目線を鋭くするが、ニョン婆は全く動じない。


「女の島・九蛇の女は、男に対する免疫や常識が欠如しておりましてな。それゆえに、特有の病に掛かるニョですじゃ」
「…………」

「ナースにも医者にも治せませぬ。それを治す為には、九蛇を出ねばならず、先代の九蛇の皇帝もその病にかかって死に……ステラも、同じ病ですニョ」


白ひげが目で先を促す。

「病の名を“恋患い”、放っておけば恋い焦がれ死にしてしまう病ですじゃ。九蛇の女のみの病、一度かかれば恋い焦がれ死にを免れる為に九蛇を出る他ない病なニョじゃよ」

「「「……は?」」」
「これは冗談ではないニョ。ステラは本当に、引き裂かれるような苦しみによって床におりまするからニョ」


白ひげやナースが、疑わしげな目を向ける。が、ニョン婆は至って真面目だ。

「まあ、試してみればよいニョじゃが、わしが確証とした事がある。『白ひげ』『別れ』と言うと、酷く苦しみ出す。白ひげを去った晩から調子が崩れ、わずか二日で倒れましたな。それに、……ビブルカードを握り締めておるのでニョ」
「………」

「そ、れって、ステラちゃんの恋の相手は、船長ってこと?」
「ま、そうじゃーニャいかと思ってるニョ。試してみるかニョ?」


信じがたい!という顔をする白ひげ達を見て、ニョン婆が提案する。
白ひげ達は、提案に乗った。


(信じられない!)(何歳差?!)(……)
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