ルドルフ | ナノ


サメラがバロンに入軍してしばらく。武力によって進級するシステムを使い近衛兵団の小隊長を勤め始めてすぐのことであった。
どうも動きにくいと思うことが多々あった。
血を血縁を重んじる軍上部であるが、サメラが与えられた隊は近衛の兵の中でもあまり武力寄りの者だけを当てられて、回ってこない書類の回収、うっかり混ざった本物の武器、ささいな事故に見せかけた手のかかる嫌がらせ。今日はたらいまわしにされた書類の処理をこなしている間、ふと空を見てそういえばとゾットについて思い出した。空にある塔。バブイルとは違って、地から繋がっていないはるか高みに入る塔。……あの塔はどうやって生活の基礎があったのだろうか。地上は道を歩けば魔物がいて木が有って多少の飲み水も確保できる。だが、空しかないあの塔で、どうやっていたのだろうか。純粋な興味だった。

「あれ。どうなったんだ?」
「隊長?なにかありました?」

飯の時にカインにきいてみるか。と思い、隊員の疑問に何でもないと返事をしてサメラは持っていた作業に取り掛かりなおした。持ち直した紙が独特の音を立てた。今日はこれでセシルに提出したら終わりだと記憶しているので、壁に予定表を書いて、そのまま部屋を出た。去り際に何かを言われたけれども、言われなれているので聞き流そうと思っていたが、後ろで大きな音が立った。

「訂正してください!ルドルフ隊長は、素晴らしい隊長です!」
「そんなわけがないでしょう。見ず知らずの草の根がバロンが汚れる。」

振り返ると、他隊の隊長に向かって、暴言に対する謝罪を求める自分の部下であった。なぐりかからんとする勢いに、サメラの隊の隊員が何人か束になって、なんとか抑えられる様子であった。

「おや、教養の低い隊員ですね、こんなのが近衛にいるなんて。」
「いつもいつもうちの隊長を扱き下ろして!!なんなんだよ、血がどう偉いんだよ!」

陛下だって、前の陛下の庇護の元育った血族じゃない子じゃないですか!取り押さえられている部下が謝罪を求めて吠えている。一人で被ればいいと思っていたのだが、見えないところで彼らにも被害が言っていたようで、小さな陰口を言われていたそうだ。上司が屑なら部下も同族だと。一人だけなら、問題はなかった。それが類するものにもいっているならば話は別だ。サメラは、今出たばかりの部屋に踵を返して入る。入口で騒動を聞いた他隊のものが驚いてまごついてる中をサメラは人の波をかき分けて部下との間に割って入る。

「部下が失礼した。」
「外の血は、きちんとわかられてるようですなぁ。」
「……いつからバロンが世界一だと認識していらっしゃいますか?」

ただの軍事国家一つが、どこまでのプライドで持っているのでしょうか。赤き翼という武器をもってるだけでお山の大将でなにを仰っているのでしょうか?ミシディアの魔法力、ダムシアンの金策、ファブールの精神力、トロイアの強かさをも持たぬバロンが何をおごり高ぶっていられるのでしょう?確かにバロンは、ミシディアを下し、ダムシアンを襲い、ファブールに突撃をして勝たれた。……でも、その場に、あなた様はいらっしゃいましたか?近衛でバロンにいたのではないのですか?過去の経歴を持って、その皮を借りていらっしゃるのでしょうかね?過去の功績は
サメラは笑いながら、そういう。お前の手柄じゃないだろう。言外に、そう責め立てる。

「過去、その言動の一旦は近衛ではないと聞いています。世界一だとおっしゃられてますが、いかがなものでしょうか?」
「我らを愚弄しているのか!」
「えぇ、他の権威を己の功績のように言うのは、如何なものでしょう?と問題を定義してるだけでございます。」

サメラが笑うのと比例して、向かう近衛兵団の長は顔を真っ赤にしてサメラに指をさして、大きな声で言う。

「決闘だ!」
「その言葉を待っていた。バロンの一般兵全員と戦闘でも問題はない。」
「大口をたたきなさる。近衛の一兵長が何ができるというのだ。」

にらみ合いながらサメラは、平然としている。そんな平然とした様子に近衛兵団の長は金切り声に似た音を上げて顔を赤くしている。そんな二人がにらみ合いをしている最中、カインが話を聞きつけてやってきたようで、慌てた様子がうかがえる。

「ハイウインド師団長。決闘を行います。近衛兵団の中での問題ですので、口を出さないでいただこう。」
「決闘?だと?相手は誰だ?」
「ルドルフ隊長です。」
「なっ!?サメラ、本当か!?」
「あぁ……そうだ問題は……何も問題はありません。」

サメラは投げられた言葉遣いを一瞬思いだして、整えて何もない顔をする。疑うような目線を向けれども、サメラは知りません。という風に澄ましてカインと目を合わせようともしない時点で、サメラもある程度何か企んでいる様子だ。すました顔でサメラは続けている。「決闘と言われたので、高価買取をしただけです。」しれ。と言ってのけるが、

「問題あるだろう!!お前は自分の力量をわかって言ってるのか!!」
「何のことでしょうかね?」
「お前は!兵団長!条件はどうした!」
「バロン所属兵全員対彼女一人。世界のバロンがこんな一人に苦戦するはずもないでしょう。」
「んな!?」

近衛兵団長の言葉を聞いて、カインが驚きの声を上げた。

「は!?」
「何困ったことはありません。飛んでくる羽虫に、困り果てていたので。真綿で絞めるよりも、全力で真っ二つにするのが一番手っ取り早いですからね。何人来ても問題有りません。ハイウインド師団長も陛下も、軍属ですから、誰もいりませんよ。」
「ルドルフ隊長も、人員は問題ありませんね。では、明後日にどうでしょう?」
「問題ありません。前もって情報だけの通達はお願いします。近衛兵団長。」

サメラの言葉に問題ないと近衛兵団長に満足げに頷いている。兵団長の頭の中では勝利図を描いているのだろう。

「私が勝てば、部下への謝罪を要求する。貴公が勝てば、希望の通り辞職してバロン城から出て行ってやろう。」
「その条件でいいし、ルドルフ隊長の部隊全員もまとめてみんなやめてもらおう」
「サメラ。」
「かまいません、勝つので。」
「ルドルフ兵長は自信がおありですねぇ。」

ぎろりとカインはサメラを見下ろした。サメラは平然と澄ましている。カインはこれ以上何を言っても無駄だと思うと同時に、カインはルドルフ隊長のもとにつく。かまわないな。と言い放った。

「勿論、大丈夫ですけど……よろしいんですか?ハイウインド師団長」
「かまわん。問題はない。寄ってたかって一人の女性をいたぶるのはどうなんだ?」
「軍属ですし、なにより負けるつもりはないので。」
「…まぁ、お前はあの戦闘集団の銀色の武神革命だしな。」

なので、一人で結構ですよ。楽ですし。ハイウインド兵団長も陛下も出ないとおっしゃっていただけると。楽なんですが……。
やんわりと断るが、カインが言う指摘をサメラは否定するつもりはなく、余裕を顔に張り付けている。それと反して、近衛兵団長の顔色は見る見るうちに色を変えていく。

「楽しみですね。」

それだけ残してサメラは部屋を出ていった。盛大に腹いせを返せると思うと、サメラの胸の痞えがとれた気がした。




サメラは平然と仕事を続けて、当日。訓練場に立った。過去に着ていた鎧と背丈ほどの大きな刀を持って、長い髪を鎧の中に押し込めて、先の大戦と似た姿をしていた。
背丈ほどの武器を訓練場の地面に挿して、柄に手を乗せて、相手がやってくるのを待っているとカインと近衛兵団長が現れた。その後ろに、たくさんの近衛兵を連れてやってきた。

「逃げなかったんですね?」
「戦担倒者。ですから。逃げることも負けることもしない。」
「サメラ、今回俺は審判に回る。近衛兵団長問題ないな。陛下からの命令だ。」
「そうですか。」

ルールを一度確認する。武器、魔法、なんでもありの時間無制限倒れるまでが試合だ。条件は訓練場から場外は敗因とし、重傷を与えるレベルのことは禁止とする。いいな?
カインの説明に合わせて、サメラと近衛兵団の双方の合意により話が進む。カインの号令により、奇天烈な戦闘が始まる。開始の号令と同時に近衛兵団が動く。師団長の総員に突撃の声が入り、サメラに向かってとびかかってくる。それでもサメラは余裕を見せてから、魔法を展開する。

「はじき出せ、エアロ。」

サメラの前から放たれた風の玉は質量を増やして、近衛兵を吹き飛ばす。壁に叩きつけて半数以上を離脱させることに成功させ、続いてサメラは地面に挿していた武器を引き抜いて、かろうじて残っている兵隊をたたき出していく。そうなったら残りは簡単で、まともに体制を整えられないものを順次武器でぶっ叩いて気絶させていく。一人ひとり意識を奪っていくと、そこにセオドアがいた。

「サメラさん!手合わせ願います。」
「やっと骨のあるやつが来たか。来い。」
「はい!よろしくおねがいします。」

声と同時にセオドアが踏み出した。セオドアが大きく振りかぶるとサメラはすっと横に反れてセオドアの攻撃をかわしてセオドアを押す。バランスを崩したセオドアは大きくよろめいた隙をついて、攻撃を繰り出す。セオドアは急いでバランスをとって、来るサメラのために構えた。瞬間的に大刀をセオドアに投げつけて、その勢いに合わせて氷魔法で刃をこしらえ、跳ぶ。
思いもよらぬ行動に身をひるがえすが、そんなタイミングを好機ととらえて、サメラは一気に距離を縮め蹴り飛ばして場外にセオドアを飛ばす。おおきな砂ぼこりは立ち込めはしたが、きにするそぶりもなく、サメラはまっすぐ近衛師団長を見つめた。
沈黙、圧倒的な戦力差。数分も経たないうちに部下たちが悉く潰されたのだ。恐るべき脅威、戦力。そんな力を持ったものがどうして、一瞬にして近衛師団長の

「……で、近衛兵団長。一人を残したわけですが、なにかおありですか?」
「ひぃっ!?」
「まだ始まって二分も経っておりませんが、ここで負けを認めていただけますか?」

にっこりと笑いながら、サメラは中心に立っていた近衛兵長の元に歩きよる。近衛兵長は、サメラが一歩ずつ歩くごとに情けない悲鳴をあげて後ろに後ろに下がろうとして壁に勢いよくぶつかって意識を飛ばした。それを気にすることもなく、歩みを寄せて途中で止まる。

「訓練場の境界線を越えたので。勝負は終わりですね。我が隊のものに日を改めて謝罪をよろしくお願いします。」
「本当にやりやがった……」
「これぐらい普通だろ。」
「いやいや普通じゃないだろうに。」

審判をしていたカインが呆れながら、のびてしまった兵を見回す。始まって5分も経っていないのだ、それに銀色の。と戦ってこの結果ならかなり持った方ではないのだろうか。サメラは過去に赤き翼を数機墜落させた経歴を持つ女がこんな一般兵数百人が束になっても瞬殺であろう。あきらかに見えた結果だったのに、サメラは何を考えているのかとカインは思った。

「サメラ。」
「何だ?」
「お前はどうして今回この話を?」
「……部下が何かを言われて逆上してな」
「まぁ、これぐらいなんでもない戦力だったなぁ。もうちょっと骨があるかと思ってたのだが。」
「じゃあ。俺と一戦どうだ?」
「本当か?」

突然の申し出にサメラは目を輝かせた。どうやら今回は消化不良気味だったらしく、いつも伏せられがちなメモ珍しくよく開かれている。

「なら、お願いしてもいいか?」
「勿論だ。魔法はやめてくれ」
「わかった。それ以外ならいいんだな。」

早く並べ兎言わんばかりにサメラは鍛錬場の真ん中にカインを寄せる。号令役も居ないけれども二人はそのまま戦闘の形態をとって、刃を交えた。1時間たっても結果は出なく、情報がやってこないことに腹を立てたセシルがやってきて二人の手合わせもここで強制的に終了になった。
そしてバロン中で、噂された先の大戦の銀。がサメラであることが証明されて、サメラが廊下を歩けばモーゼよろしく道ができるという現象ができたとかできないとか。

2020カイン誕生祭記念おわり。



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