カインとサメラの手合わせが終わった翌日。夜。目的の店をサメラが指定したので時間を決めて二人で落ち合うことにした。カインが店の前に到着したらラフな姿をしたサメラがそこにいなかった。 「……サメラ?」 「何も言うな。ローザに出会ったから外で食べると伝えたら、こうされた。」 年相応の落ち着いた服装であった。何も考えてなかったら、旅をする時のようなマントだけを取っ払ったすがたにでもしてのかもしれない。合理性と実用性を何よりとしている女だ。黒のアンダーの上に生成りの服を一枚ひっかけて、下は恐らくローザから借りたかとも思えるスカート、足元は小さな装飾をあしらっている木靴でいた。いままでの旅の姿とそれなりに遠く離れた装いのサメラにカインは一瞬返事をどうかけるか悩んだ。 「似合ってるぞ。ただの町の中の娘みたいだな」 「……お前、私の実年齢を知ってそれをいうのか?この国の王と同い年だぞ?わかってるか?」 「もうちょっと素直に受け取れ。」 カインが苦言を呈するが、サメラは交わして、先に店に入る。酒場とも言われる飯屋だ、女を買う場所も兼ねてるところがあるのとも伺っているので、カインはすぐにサメラの横に位置とった。サメラは迷うことなく一つの席に腰を落とすので、向かいにカインは落ち着けた。店員が注文を聞きにやってくるので、サメラは迷わずに言い切った。 飯を一種類ずつ、全部持って来いと。 「サメラ?正気か?」 「なんだ?」 「ここの飯は量が多いぞ。」 「…がどうした?」 おまえ食が細いだろ、と言うがサメラは意味が解らないという顔をする。食事は食えるときに食べておくものだろ?なんて言う。忙しいときは食べなくても問題ないという。旅の旅程はいつ変わるか解らないから町でいるときに食いだめを行っていると言い切った。 「先の大戦でそこまで飯を食ってなかっただろ。」 「町では自由時間の時に食べてたぞ?食料問題もあるしな。」 「お前は……。」 じゃあたとえば山に登る。悪天候で身動きが取れない、食事は残り2日分下山には4日かかる。そうなったら、どうする。食べないか減らすかはするだろう?それが常に続くと人は生きていくのが難しい、だから町で食べ溜めるんだ。とサメラが言い切るが。そう大量に食べるというのなら、どこかに行くとも聞こえてきた。 「サメラ、どこかに行くのか。」 「休みもあと一週間と少し空いてるからな。ちょっと遠くの景色を見に行きたいと思ったし、ついでに食いだめだ。」 「な、俺も一緒に行っていいか?」 「ん、あぁ構わないぞ。」 その前に飯な。全部食わないと置いていくぞ。と支払いはカインなのにその言いぐさがなんだかおかしくてカインは笑った。くつくつ笑っているのが不思議なのかサメラは首を傾げつつも目の前の食事に手を付けている。 「バロンは、香草をよく使っているな。食べやすい。」 「他は、どんな味付けをしてるんだ?」 「ファブールは薄い、ダムシアンは塩濃い。エブラーナは独特の香料を使っているし。」 あれやこれやと口にすると、サメラが作ったスープを思い出した。寄ったところの味付けにしたり、多少の工夫がよくされていた。誰かがあの感じの、と言って実現させるのだから、その調理能力はすこぶる高いのは実証されていた。 「勉強になるな。」 「バロンに来てからその土地土地の調味料やらが少なくなってるからな。それを補充するのに一週間ほど出ようと思って。」 「それでか。いいのか、ついていっても。」 「まぁ、お前もある程度体を動かせるようになるだろ?」 ついでだといわんばかりに、サメラは言う。魔物も倒して体を動かして、旅をして荷物を増やしていくから丁度いい荷物持ちになる。まで言われ、カインは苦笑を浮かべる。けれども、まぁここしばらくの看病の礼としてなるならば、ありなのではないかと理解したが。 「お前はどれだけ食べるんだ。」 「え?」 カインの眼前にはテーブルいっぱいの平らげられた皿の山。昨日の手合せでかけて奢りを自分から言ったので翻すつもりはないが、お前は限度を知れとカインは怒った。明らかに一人分、としての量をかなり超えている。 「仕方ない、明日からの飯と宿代ぐらいもってやるから今日は奢れ。」 「おい。また追加注文をしようとするな。」 けろりと言っているがゆうに二人以上分の飯がサメラの体に入ってるのかと思うと同時にこの小さな体のどこに入るんだと疑問しかわかなかった。そして残念なことに、この夜カインは食あたりを起こして、翌日からのサメラの旅についていくことは叶わなかく、翌日から一週間、部屋にこもることになったのは語らないでおこう。 「なんであれはぴんぴんしてるんだ。俺よりも量を食ってたんだぞ?」 「…食あたりになる前にひたすらエスナをかけていたら治るんだぞ?エスナ。」 「なわけ……あった…」 彼と私の生活。 6日目。 おしまい。 前 戻 次 ×
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