ルドルフ | ナノ


カインが怪我をしたと聞いた、バロンの近衛兵詰所で。
それを聞いたサメラは、どんな魔物が出たのかと思考を巡らせた。月にまで行ったことのある伝説級の英雄が怪我と言うのだから、バロンで否世界でそんなやつが出たのかと思考を巡らせてしまうのは、昔からの性だろうし、育ってきた環境のせいにしてしまうと考えた。肩の傷ならば牙か爪かと思考する辺り、サメラはまだ魔物と戦い足りてないかと自覚する。とりあえず今晩にでも見舞いでもして、からかうか。なんて思っていたがサメラの思考とは異なる現実が目の前にあった。
仕事を終わらせて、晩御飯になるものを持ってカインの部屋に伺うとベットに横になっているカインの足に包帯が巻かれていたのが、見えた。

「骨折?」
「いや、捻挫だ。二週間ほど自宅での安静のな。」

…戦闘の負傷じゃないのか。なんてサメラは嘆いた、本当に根っからの戦闘狂だな。と呆れられた。がそんな些細なことを気にする質でもないサメラは、しばらくの生活はどうするんだ?とカインに問いかけた。バロンには女中なるものは王か、良家の家にしかいない。ましてやここは兵の宿舎になるところであるので、そんなものは居もしない。

「日一回セオドアに来てもらうかな。」

そう言う話をしていると、軽めの独特のリズムでノックが2つ。長年の旅で聞いたリズムなので、それが誰かもすぐにわかった。がちゃりとドアが開いて、それがセシルだとわかると、やはり。とサメラは思ったが、同時にサメラは怒ることにした。

「セシル。こんなところに足を運ぶな。」
「サメラは頭堅いよね。僕の国だよ?カイン、怪我をしたって聞いたけど。」
「この通り、二週間ほど安静だと。」

それを聞いたセシルは、嬉しそうに微笑みをしながら、一つ頷いてから爆弾を一つ落とす。じゃあサメラ、しばらくカインの様子を見てあげてよ。きみ、長いことまとまって休みをとってないでしょう?いいアイディアだというようにセシルは言うが、たまったもんじゃないとサメラは声を上げた。

「だって、伝説だとも言われるようなカインの一週間の喋り相手がセオドアじゃあねぇ。セオドアも仕事があるわけだし」
「私にもあるが?」
「きみのところ、班を一つまとめて休みにすれば問題ないでしょ?」
「さらっと言うな。お前のためのシフトだぞ?衛兵の負担が大きくなる。」

えーでも、カインだってベッドに張り付けなんて楽しくないよね?いや、子どもじゃないんだし寝かせとけ赤子と違って寝てても死なん。ほら、僕は王様だよ?そんなことで国家権力を使うな馬鹿者。
流れるようにスラスラと話は流れるが、おおむねセシルがごねているので進まない。壮年の男と思えぬ形相で、頬をふくらませるなんていう絵面が似合わなくてサメラは頭を抱える。

「まともに休んでないでしょう?サメラも。」
「お前がちゃんと仕事をしていれば、逃げるお前を追いかける私たちの仕事だって半分以上減るんだがな?。」
「僕が王様である以上、この話は命令だよ。」
「おい、セシル!」
「多少の優遇はしてあげるから。っていうか、もう先に指示を飛ばしてるから。サメラの顔を見たら追い出すように。って言ってるよ。」

他の班長からの嫌味が飛んでくるだろう。そのまま来なくなればバロンは平和になるだろう。だとか言っている姿がすぐに浮かぶ辺り、毒されているのだろう。そして、ここまでいうとセシルはテコでも動かない、サメラは抱えている仕事もあるのだが、なんとかするしかないのだろう。頭が痛い。

「が、しかし。セシル。お前も約束しろ。」
「何に?」
「私がいなくても、真面目に仕事をするよな?そうじゃないと、これまでの契約をすべて反故にして出ていくぞ?」
「サメラはテコでも動かないもんねぇ。」

わかったよ。とセシルも困ったように笑った。それでも、真面目に仕事をすると言っているが、怪しいよな。とサメラは思ったけれども、もらったものは仕方ない。話を詰めるぞとサメラはカインの傍らに腰をおろして、しばらくの生活の概要をまとめる。
セシルはそんな二人を見て、ひっそり先の大戦での姿を思い出した。夜餡の支度は主にサメラがやっていて、あれやこれやともくもくと動いてる傍らにカインがいた。まるで昔に戻ったような気分になりながら、セシルは小さく笑った。
こういう経緯で長期休暇もといカインの介抱が始まるのであった。

彼と私の生活。
1日目。

「とりあえず飯は持ってきたが。テーブル引っ張ってこようか?」
「助かる。」
「にしても、今さらどうしてそんな怪我を…。」
「着地に失敗した。」

それを聞いてしまった以上、何と言い返していいかわからずにサメラは一度ため息をついた。ばかか。と呆れた言葉が出てしまったので、サメラはそれ以上なにもいうことはなく、明日の昼にでも薬を持ってくると言われて、カインは鈍く返事をする。けれども、サメラは構わず続けて「とびっきり苦くしておいてやる。その分効果を期待しておくといい。」と告げるとカインの表情が歪んだ。

「諦めろ、その分効果はある」
「味はなんとかならないのか。」
「効果が落ちるぞ。」

この女は、効くか効かないか。で判断する女だったとカインは今思い出した。先の大戦での薬類のものは彼女が作ったもので、効果はかなりのものだが、臭いだったりその後が酷かったりするものが多かった。ポーションだけはかなり消耗するので、それだけが買い物で得た物であったが、ポーションでは腹痛や鎮痛に効果がないから、頼る部分でもあるがそれ以外は本当に散々だった気もする。

「効果を落としたら別の効果が発生するから、オススメはしないが?」
「…別の効果…」
「食中毒。」
「なっ!?」

毒は適量を守れば薬だぞ。と彼女が言うがこの女は両極端だったと改めて思った。そうこうしている間にサメラは食事を済ませて、使用した鍋を片付けるために席を立つ。お前はゆっくり食ってろ台所を借りるぞ。と声を残して、自分の使用した食器を引き上げる。
相変わらず食事の早い女だとも思いながら、歩いていく背中を見つめる。銀の長い髪も日常生活のオフなのかしてかゆるく一つで束ねられて流している。歩くと同時に揺れていたが、本人の邪魔だったのかインナーの中に押し込まれた。なんだかちょっともったいないな。とカインはその背中を見つめて思ってしまった。そんな視線を受けてもサメラ派そのまま作業を続けている。
ほんとに前の大戦の様だなとついつい重ねてしまい、カインはそんな自分に呆れながらも止まっていた食事に手をつけ出した。



×