ルドルフ | ナノ


慎ましやかにサメラがバロン国王―セシル・ハーヴィの推薦により軍入りしたということが軍内部に広がると同時にサメラが銀色のあだ名を冠ざす人だと噂が流れ出した。そんな話が流れ出してからか、軍内部ではサメラに関しての話が密やかに囁かれ風が吹くかの如く広まっていくそんな頃。
サメラとカインの間柄は、多少進展があるかといえばないに近く、強いて言うならば鐘一つ分と区切られた時間がなくなり同じ部屋で時間を過ごすことが増えた。

食事を終えて二人しかいない部屋で、各々がやりたいことをやっていた。カインは鎧も脱いで薄手のシャツとパンツに着替えてから暖炉の前に陣取り黙々と本を読み進めていると後ろからうめき声が聞こえて、不思議に思ったカインが怪訝そうな顔をしてサメラの方を向いた。

「何をしてるんだ?」
「いや、少し前から不思議な手紙が書類に混ざっててな。月のとか女神がどう、とか。」

月には戦士が居たが、神なんぞ居るわけもないし…誰のかもわからないし、全くもって意味がわからん。と机に伏せた。昔セシルも似たような姿をしていたな。と昔の光景が蘇ってカインは一人くすりと笑ってからサメラの言う手紙を見るために後ろに立って、目を通してみた。

月の光に導かれども
その輝きも霞んで見えて
女神も神も頭を垂れ
夜闇のなかの光の如く微笑む薔薇は
青く沈黙し花開く

そこまで目で追って、粗方理解した。
誰かが、サメラ宛に送った恋文だろう。月の光や青と…名前を出さずにサメラを浮かべるのは、詩人だろうかと考えるが書類のある場所に混ざるのだから詩人ではないと判断する。そして、残念なことにサメラはこの間ようやく何も見ずに読み書きが出来るようになったところの学力に到達したところであって一般平均レベルの知力をもたない彼女にはかなりのハードルが高い手紙であった。
送った相手は恐らくそんなサメラの学力など知らずに送ったのだろう。カインは気の毒だと思うと同時にざまあみろと人知れずに毒を吐いた。

「なにかわかるか?」
「いや、お前が知らなくてもいい話さ」
「昔、こういう風に話す仲間がいたな。と思い出してな」

キャラバンの、か?と問うとそうだ。と返ってくる。どこか自分の知らない姿があることが心の端でゆらめいた。カインはこれは駄目だと思い、一つ行きを吐き出してからサメラの名を呼ぶ。なんだ?と振り返る所を捕まえて、そのまま額に唇を落とす。青の瞳が不思議そうにカインを見て、首を傾けた。

「どうした?」
「いや、なんでもない。」

ふいと視線をサメラから手紙に戻して何事もなかったかのように、取り繕う。サメラは持っていた手紙を机において、やれやれと首を振ってから体を横に向いてから服を勢いよく引っ張りカインの唇を奪った。

「やられたままでは気がすまん質でな。」

ニッと口角を上げるその姿はひどく戦闘中に見せる顔でない一面だった。カインは、こんな表情を誰かにみせてやるものかと、一人誓うのであった。
(いや、カインに律言詩させたかっただけなんだけどな…。)


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