ルドルフ | ナノ


ぼんやりと色々考えてみた。
手をさしのべたくて仕方ない人。とローザがいっていた。傷つく姿を見たくない。とも言っていた、それはどういうことなのかと思いに更ける。

脳裏に浮かんだのはゼムスの一件であった、大きいのにどこか闇を抱えた背中だった。たしかに、あの時は気になった。じゃあ、その気になるはなにだったのか。と考えれど、闇に落ちないかの心配だと思っていたのだが、もしかするとこの気持ち自体が……。いや、あってなるものか。その最初の気持ちは恋慕からの洗脳だったではないか。ファブールでの攻防の時のやりとりから、彼もまた苦悩の人だという箱にいれた記憶は、リディアに泣き寄られたときに考えたものだった。

じゃあなんだったんだ。あれは。と考えているうちに、知れずため息をつく。
どうしてこうも、考えねばならん。と思いつつ、思考を切り替えるように、手元にあった資料に目を落とす
。文字を認識しだして、読める単語が増えてきたのは、日頃の勉強会のおかげであった。では、どうして、最初に私はカインに頼んだのか。と疑問が出てきた。
別に学のないのは元々で、セシルに頼らない。これだけを芯としていた。バロンでの付き合いを考えると知り合いはカインだけだったから、頼んだ。それだけだ。
真っ先に思い浮かべれるほどの付き合いだったか。と言われるとなんとも言えないが、ゼムスとの戦いから終わって戻るときに話した僅な時間は、楽しかったような気もした。
もしかすると、ずっと前から、私はあいつに手をさしのべたかったのか……?いや、違う。もっと前から手は伸ばされていた。そうだ。カインはあの時。ゼムスとの戦いの前の行きの魔導船で言っていた。

誰ももう居なくならない。お前のせいじゃない。お前が守ればいい。足りないなら手を貸してやる。必ず誰も亡くしはさせない。
もしかしたら、違うのかもしれないけれど。昔から手はずっと、出されていたのだとサメラはようやく気がついたのだった。
が、どうやって言えばいいんだと。新たに浮上してきた問題にサメラは頭を抱え、机に頭をのせるのに失敗して大きな音をたてたのであった。

「痛い……」
「そりゃあ、そんな音してましたからねぇ」

頭の軽い隊員が心配しながらも、ケラケラ笑い飛ばしてるのを、視界の端においやって、痛む部分を押さえるのであった。

「で、なにしてんすか?」
「仕事だ、ばかもん。」

なら、早くサインくださいよ。俺たち、もう鐘一個分まってんすから!
熱でもあるんすか?と冷やかす部下に、わかった。といいつつ、サメラはノロノロと書類にインクを走らせるのであった。


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