ルドルフ | ナノ


踏み込みが甘い次!。と怒声をあげながら、サメラが訓練場で兵と鍛練をあげているのが、移動中の通路から見えた。

「サメラさんですね。」

隣にいたセオドアが視線の先をたどって、そうだな。と振り落とされる太刀を避けきれず、頭からその太刀を受けてしまうのと勢いよく吹き出した赤が見えた。
訓練では刃を潰して使うのだが、切りどころが悪かったのだろうか。遠くからでもその赤はよく見えた。
その刃を受けても、サメラは咆哮をひとつあげてから、魔物は最後まで止めを刺せ!と吠えて次を促している。その勇ましさは昔から変わらない、怒声だか雑言だかわからない口の悪さは、悪化しているようにも感じた。

「派手にいきましたね……」

セオドアのこぼした小さな声が、酷く耳についた。たしか、今晩は勉強会の日だと認識しているので、ついでに問いかけてみようと決めてみる。のは今日のひるのはなしだった。

「入るぞ。」

既に慣れた隣の家よろしく、簡素にノックをしてからサメラがカインの部屋に顔を出した。額に一枚消毒したガーゼを貼ったサメラがそこにいて、カインはぎょっとした。

「おい、お前。」
「あぁ。ちょっと訓練で切った」
「ちょっとの度合いを越えているだろう」

ケアルかけるか?と投げれば、旅の途中ならケアルをかけてたが別に、いらない。どうせ何時か治るし。裂傷もきれいだから押さえてたら傷跡も分かりにくいさ。とカラカラ笑った。

「ケアルの練習をさせろ。」
「知性……」

いつの話だ。と頭を小突いて、椅子に促せる。仕方ないな。といいつつも荷物を机においてから、腰をかけて目を閉じる。

「お前も女なんだから。もっとこう。」
「悪かったな、根っからの戦争屋で。」
「そうは言ってないだろう。」
「そういう風に聞こえる。お前は女らしくないってな。」

傷口に癒しの光をあててやると、ぎろりとサメラがカインを射る。澄んだ空にも近い青が、まっすぐ射抜くので、カインが一瞬及び腰になったが、サメラは甘んじてそのケアルを受けている。
ある程度かけていると、しっかりと傷跡の残らないようになったので、それを確認して終わったぞと、肩を叩く。当たり処がわるかったのか、サメラがびくりと跳び跳ねて小さく声を漏らしたのを聞き取った。

「捻ったのか?」
「角が当たったみたいでな」

包帯も巻いてるし問題ないと言うので、それも治すというと、サメラは呆れたように肩口を差し出した。およその見立てで今日ついた傷ではないし、明らかに切り傷であると察知して、カインはどう声をかけようかあぐねいた。

「角で抉れただけだ。問題ないさ」

練習だろ。と言うが、明らかに潰した刃だったらできない傷だ。故意的に混じったか。とも判断とれる傷だ。

「おい。」
「なにも、問題ないさ。」

治すんだろ。と問いかける姿に、笑いあいながらヤジを飛ばす隊員の姿を思い出して、あれではないか。と思慮しながらかさぶたすら出来上がってない傷口に癒しの光をあてていく。
もしかして、と思考が一つ行き着いた。よそからやってきた者がすいすい上に上がっていくのを快く思っていない者がいるのかもしれない。そう考えていくとすんなりこの傷も、先日のショートカットも納得できた。

「いつか、飽きるだろう。」

ほっておけ、といわれて、カインはどうしようもなくなってただ傷口が無くなるようにと、魔法の出力をすこしあげるのであった。


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