ルドルフ | ナノ


その号令とともに、戦陣を展開する。ぐっと取り囲むように広がれば、マラコーダが四足の獣のように、プロムを背負って駆け出した。

「ゴルベーザ、お前のやることはわかっているであろう。」

魂と真名を握り、あれを起こす。戦力は多い方がいい。とマラコーダが過去の幻影から奪ったクリスタルをゴルベーザに託す。

「我ハ、アレノ名ナゾ、握ッテオランノデナ。」

実兄のお前が知らないはずがないだろう。と突き放して、マラコーダはゴルベーザの移動のために援護を行う。槍で、うごめく触手を貫き、切断する。

「援護を!」

セシルの号令に、全員がゴルベーザの支援を行う。移動速度の向上も、屈強な守りのための魔法も、回りを愚鈍にするための魔法も、一斉に発射し、色とりどりの光線が飛び交う。己も阻害するように、氷の魔法を全力で叩き込み、触手の動きを制し氷の道を一気に作り上げ、全速力でそこを駆け抜ける。
襲いかかるものをマラコーダが制し、駆け抜けるための足場となるために氷の上に乗り上げる。ゴルベーザは視界にそれを視認して、遠慮なく踏みつけ飛び越える。

ぐんと近くなって、その目に語るように、ゴルベーザが口を開いた。「起きろ。」手の中のクリスタルが反応するように光を放ち、待っていたといわんばかりの喜びが溢れたような気がして、クリスタルが空気のなかに溶けていった。
勢いよく、サメラの横に着地しサメラを拾い上げて、来た道をただ走る。短い距離と二三の跳躍で戻り、陣営の最後衛に位置ついてから、ゴルベーザはそっとサメラを自分の立てた膝の上に座らせて、そっと顔を下から覗き込む。虚ろな青は、瞬く間にぐっと光を宿して、口を開いた。呼気と同じタイミングで魔法の気配を察知して、ゴルベーザの顔が一気に青くなった。

「伏せろ!」
「フレア三連撃!」

ほぼ同時の音声に、幻獣神のような閃光を放ち、跡を追うように熱が走った。色を失った赤が三発まっすぐとんで、土を割り闇を切り裂き、地盤でさえもひっくり返すように捲り上げ、砂埃が舞い上がった。

「絶対に負かす。」

戦闘の本能だけが、上回って時が止められていたらしく灼熱魔法を放って、サメラは辺りが違うことに気がついた。

「……なんだこれ?」

緊張感のない声が、辺りを支配した。見覚えのある20ほどの対の瞳がこちらをみていて、サメラが一瞬困惑した顔を浮かべたが、「起き抜けになに、とんでもねー技ぶっぱなしてんだよ。」とエッジの声でサメラが置かれている環境が、また違う戦場だと気づかされた。

「サメラ。説明は後にしていいかい?」

解った。とサメラは声に出して、武器を確認したが、無かったので両の手に薄くエアロを纏わせその上から魔法を乗せる。

「負けるのは、嫌いだからな。」

全力で叩き潰してやるメテオ!
ぎろりとした、青の瞳が狡猾で歪な人形を射す。指先から放たれた魔力は塊となって姿をなし、叩きつけるように頭の上から、尾のついた星が降り注いだ。
銀の長い髪をゆらして創造主を見つめて、形のいい唇を開いて、放つ。

「劣等種の本気ってやつを見せてやるよ。」
「ルドルフ受けとれ!」

声の方を振り向くと、放物線を描いて手元に袋が落ちてくる。サメラはそれをつかみ、紐をほどくと、プロムに手渡した懐かしいダガーが一つ入っていた。

「おめえのだろ、使えよ」
「ついでに、背中も借りるぞ。」

走って、エッジの背中を蹴るように空に走り、ダガーを刀のように薄く長い剣に変えて、もがく触手を一振りで切り落とし、着地する。
着地を狙った触手がサメラにぶつかるように動きを阻害する。足をとられ、触手がそこを狙って追撃をかけようとする。

「サメラ殿!」

遠くのヤンの怒声に反応してか、誰かの影が目に見えた。


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